まもなく開幕するリーグワン2024-25。今シーズンのダークホースに名乗りを上げるのが、三重ホンダヒートだ。
ディビジョン2から昇格した昨シーズンは11位に終わるも、今オフに大型補強を敢行。優秀なコーチも多く招聘し、 年々レベルの上がるディビジョン1に立ち向かうための戦力を整えた。
生まれ変わったチームを牽引する選手の1人が、スクラムハーフの北條拓郎だ。
昨季アーリーエントリーで加入し、すぐさま先発に定着。8試合に出場、うち7試合で背番号9をつけた。
そんな若きエースのこれまでのラグビー人生を振り返り、その人の人柄や三重ホンダヒートの魅力に迫る本企画。個人的にもホンダ―ヒートに注目しているという、ラグビー実況でお馴染みの矢野武アナウンサーが話を訊いた。
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~大物で甘党、若きリーダーの素顔~
――北條選手、本日はよろしくお願いします。
よろしくお願いします。いつもテレビの実況で聴いている声なので、なんだか安心します(笑)。
――ありがとうございます(笑)。ヒートでのデビュー戦は、実は私が実況を担当させていただきました。3月1日、秩父宮ラグビー場での横浜キヤノンイーグルス戦でしたね。
秩父宮でしかもナイターで試合をするのが人生初でした。チームでは最初にアーリーエントリーで出させてもらったので、絶対に爪痕を残そうと思っていましたね。
――緊張はしなかったですか。
緊張はまったくなかったですね。もともと、あまり緊張しない方なんです。
ただ先日出演させていただいたラジオはめちゃくちゃ緊張したので、ラグビーだけかもしれませんが(笑)。
――初めて鈴鹿に来てからの数か月は、試合に出ながらどういう毎日を過ごしていたんですか。
海がある土地に住むのは初めてでした。僕は長野県出身で、(高校から大学まで過ごした)奈良県も海なし県です。近くに海があるのは新鮮で、何度か見に行きました。
同期が5人いて結構仲が良いのですが、カフェに行ったり、ゲーセンにも行きました(笑)。
――居酒屋ではなく、カフェなんですね。
そうですね。僕、甘党なので(笑)。ホンダの工場の前にある『ナフブラン』というカフェによく行きます。
――そこでコーヒーを飲んで、いろいろ話すのですね。
そこで僕は絶対パフェを食べます(笑)。季節のパフェというのがあって、この間はマロンでした。他のみんなはだいたいフレンチトーストを頼んでいますね。
ラグビーとの出会い、家族の存在。
――では、ここからはラグビーとの出会いからお話しいただければと思います。
長野県はラグビー人口がすごく少ないのですが、僕が住んでいた地域はラグビーが盛んでした。
僕は3兄弟の末っ子で、兄2人が先にラグビーを始めていたので、年中ぐらいからはラグビーボールを触ったり、持って走ったりということはしていたみたいです(次男はクリタウォーターガッシュ昭島のHO・耕太)。
――他のスポーツをやってみたいという気持ちはなかった。
なかったですね。ラグビーをしているのが当たり前で、辞めたいと思ったことは一度もないです。
――母・美代さんの応援は熱いと聞きました。
どこの会場でも応援に来てくれます。大学の時も関西までは4、5時間かかるけど、毎週来てくれました。練習試合でも来てくれました。
兄が天理高校の時から続けているのでもう10年以上になると思います。今でも天理大学の応援に行くくらいラグビーが好きなお母さんです。
――声援は聞こえるのですか。
めちゃくちゃ聞こえますよ。ただ声援が聞こえても、気がついていないようにしています(笑)。たぶん天理の保護者の間では有名だと思います。いつも叫んでいるし、いつもいるし。「タクロー、イケー!」みたいなのが聞こえたら、絶対にお母さんです。
――すごいですね…。お母さんが遠征するきっかけは、奈良の天理高校進学からだった。
兄が2人とも天理高校に行っていたので、天理高校に行きたいとこっちが言う前に、親と監督との間で天理高校に行くことが決まっていました(笑)。高校まで進路は2人と全部同じです(高森RSから南信州JrRS)。
――高校では意外にもバリバリのレギュラーというわけではなった。
高校でははじめ、全然試合に出られませんでした。2年生の時にチームは花園に出ましたが、僕は控えから一度も試合に出ていません。
けど、3年生の選抜大会で一度フランカーで出させてもらって、それが良い感じにハマったんです。元々タックルは得意だったので、そこからスタートでいろんなところで使ってもらえるようになりました。センターやウィングもやりました。
――スクラムハーフで出られなくても、モチベーションは保てた。
ラグビーが好きなので。絶対に諦めたくなかったし、とにかくディフェンスができるという強みをアピールし続けました。
――今のスタイルのベースになっている。
絶対に繋がっていると思います。リーグワンは体の大きい選手ばかりなので、大学や高校の時みたいに簡単ではないですけど、体を当てにいくのは嫌ではないし、ブレイクダウンにもガンガン頭突っ込めます。
――では挫折とはまた違ったのですね。
そうですね。高校の時は挫折ではなかったです。スクラムハーフではなかったけどチャンスをもらえて、白いジャージーを着て試合に出られたのは本当に嬉しかったです。
大学時代の挫折、地元のコーチの存在。
――「高校の時は」ということは、大学では挫折があった。
はい。2年生の時に心が折れそうになったことがあります。1年の時点で自分が3番手だったので上2人が卒業して2年の春からスタートで出させてもらったのですが、全然うまくいきませんでした。
夏の菅平で一気に5番手、6番手くらいまで落とされました。かなりショックでしたし、その後もなかなか上がれなかった。
菅平から戻ってからは、南信州RSの下平(正)コーチにも相談しました。今でもラグビーの相談をさせてもらっていて、帰省した時は一緒にトレーニングしてくれますし、後押ししてもらっています。
それからは自分のセールスポイントを地道にアピールしました。それを小松さん(節夫/監督)がしっかり見てくれて、シーズンの途中でまた9番に戻れました。
――下平コーチの存在は大きいのですね。
「最近、調子どうだ」とまめに連絡をくれるんです。あの時も試合の映像をチェックしてくれて、何が通用していて何が足りないかを細かく教えてくれました。
その試合映像は母がコーチに送っていたんですよ。ここでまた母親が出てくるのですが(笑)。
――敏腕マネージャーのようですね。もしかして北條さんにコーチから連絡するように伝えていたのでは…。
いま思えば、本当にそうかもしれないですね。コーチからタイミング良く連絡が来たなと思ったんですよ(笑)。
――今度、真相を確かめてくださいね(笑)。大学の話に戻ります。4年生ではキャプテンになりました。これまでキャプテンの経験は。
初めてです。リーダー自体が人生初でした。キャプテンになるまでは全然そういうキャラクターでもなかったし、前に出ることもそんなに好きではありませんでした。
小松さんからキャプテンどうやと言われて、僕も自分しかいないかなと思ったので、やることになりました。
――3年ぶりに全国ベスト4まで導きました。
春は同志社に負けたので、去年、一昨年と変わらないかなと思ったんですけど、夏にみんなが本当に頑張ってくれて、自分たちの強みをしっかり出せました。
帝京大との準決勝で負けてしまいましたが、シーズンでも一番いい試合でしたし、年越しもできて楽しかったです。
三重ホンダヒートの加入からデビューまで。
――シーズンを終えて、すぐにアーリーエントリーでの三重ホンダヒートへの加入が発表されました。加入の決め手は。
僕を一番に欲しいと思ってくれるチームに行こうと決めていました。それがディビジョン2(当時)でも関係なく。ヒートは一番に声をかけてくれましたし、GMの前田(芳人)さんやチームディレクターの向久保(孝)さんが天理に何度も来てくれました。
――大学とリーグワンはやはりレベル差はありましたか。
そうですね。特に外国人選手は手足も長いし、強さは感じました。でもまったく通じないなという感覚はなくて。むしろ「いけるぞ」と思えたことの方が多かったです。
――スクラムハーフはスター選手揃いです。
そうですね。特にコベルコ神戸スティーラーズの日和佐(篤)さんは上手でした。
でも、試合では思い切りタックルいったる、くらいの気持ちで戦っています。花園近鉄ライナーズ戦ではクウェイド・クーパーにハイタックルしてレッドカードをもらいました。アーリーエントリーでレッドカードをもらうのは僕だけだと思います(笑)。
――ヒートに来てから、チームにはすぐに馴染めましたか。
ヒートはみんな仲良くて、明るいチームです。チームに合流してからみんなめちゃくちゃ優しくて、すぐにチームに溶け込めました。
古田凌さんや天理高校で先輩の小林(亮太)さん、根塚(聖冴)さん、山路(健太)さん、(呉)洸太さん…。名前を挙げるとキリがないのですが、みなさん本当に優しいです。
――北條選手は社員選手ですよね。
エンジン管理課というエンジン製造の部品を管理する部署に所属しています。同じ部署の先輩の服部(航介)さんにはすごくお世話になっていて。会社のことは全部教えてもらいましたし、クラブハウスでも気にかけてくれます。実の兄よりお兄ちゃんです(笑)。
――社員の人たちも応援してくれる。
職場でも頑張ってこいよと言ってもらえますし、グループリーダーの片山さんは野球をしていたので、スポーツに理解のある方で、いつも背中を押してくれます。
――個人的に推しの選手はいますか。
それはもう中尾隼太さんです! しっかりしているんですけど、ふざける時は全力でふざける方で、めちゃくちゃ面白いです。
ロンドンの名門・ハーレクインズへの留学と今季に向けて。
――10月には、ヒートがパートナーシップを締結しているハーレクインズに一緒に行ったのですね。
めちゃくちゃ楽しかったです。隼太さんは英語ペラペラなので、ミーティングの内容などをいつも教えてくれました。
隼太さんとイングランドに行けたのはすごく大きくて、隼太さんのラグビーの考え方をたくさん聞くことができて、隼太さんからも、ハーレクインズからもいろんなことを吸収できました。
――代表期間だったので、マーカス・スミス選手はいなかったけど、SHダニー・ケア選手はいたようですね。イングランド代表100キャップ超えの名選手です。
シーズン中なのであまり時間はなかったのですが、キックをレクチャーする時間を作ってくれました。細かいスキルも教わったのですが、考え過ぎず自分のやり方でやるのが一番良いと言われました。
――今シーズンの開幕も近づいてきました。チームの状況はいかがでしょう。
プレシーズンで試合を重ねる中で、自分たちの強みも見えてきて良いところもいっぱい出てきました。今シーズンは(目標としている)トップ6を狙えるのではないかと感じています。
――今季、三重ホンダヒートは選手やコーチが大幅に入れ替わりましたね。
僕も驚きました。プロの選手がいっぱい入ってきて、昨年とは違ったレギュラー争いができていると思います。チーム内が活性化されて、どんどん強くなっていると感じます。
――チームの戦い方やキアラン・クローリーHCのスタイルの浸透具合はいかがでしょう。
キアランは大きくボールが動くアタックがしたいので、本当に面白いラグビーになると思います。それを僕と10番で組み立てたいですし、バックスリーにはボールを持って走れる選手がいます。良い形でボールを渡したいです。
――注目選手はいますか。
ジョニー(ファアウリ)さん、マノ(レメキ ロマノ ラヴァ)さん…。あとバックスリーは全員、注目してほしいです。
――レメキさんは久々のヒート復帰です。彼の存在はいかがでしょうか。
本当に大きな存在です。チームの雰囲気が硬くなり過ぎていたら、柔らかくなるような言葉を言ってくれますし、でも時には厳しいこともしっかり言ってくれます。
一緒にBKリーダーをさせてもらっているので、いろいろと勉強させていただいています。
――リーダーとして北條選手はどのような役割を担っているのでしょう。
まだ1年目なのであまり言葉で引っ張っていくのは難しく、そこはマノさんに任せてしまっていますが、試合になればスクラムハーフはゲーム組み立てる選手の一人として、いかに冷静にゲームを見ることができるかが僕の役割になると思っています。
“The Power of Dreams” 北條拓郎の原動力。
――チームとしての目標を、短いスパンと長いスパンでそれぞれ教えてください。
短いスパンでは、とにかく開幕戦に勝つことです。
――開幕戦は、12月21日に三重交通G スポーツの杜 鈴鹿で行われるリコーブラックラムズ東京戦です。トイメンはTJ・ペレナラの可能性が高いですね。
絶対に出てくると思いますし、インターナショナルプレーヤーと戦えるのは楽しみです。一発、かましたいですね(笑)。
長いスパンでは、2027年にリーグワン優勝を掲げています。ただ優勝するだけでなく、人として、チームとして最も尊敬される、ファンから愛されるチームを目指しています。
そのためにも今年は本当に大事なシーズンになると思っています。
――個人としてもアピールしたいシーズンですね。日本代表はどのくらい目指していますか。
もちろん日本代表になりたいですし、特に(クボタスピアーズ船橋・東京ベイの藤原)忍さんと9番を争えたら本当に楽しいと思います。そのためにも、まずは呼ばれるようにならないといけません。
――藤原選手が天理大で4年生の時に、北條選手は1年生でした。
いつも忍さんにくっついていました。1年の頃はコロナでチーム練習がなかったので、忍さんと一緒にずっとトレーニングしていました。
グラウンド外でも、休みの日は寮でご飯が出ないので忍さんが弁当を買ってきてくれて、部屋でラグビーを見ながら食べていました。
――4月27日のスピアーズ戦では直接対決が実現しました。
本当に楽しかったです。毎試合、9番だけには絶対に負けたくないと思ってプレーしていますが、それが忍さんだったのでより気合いも入りました。
一緒に頑張ってきた仲間とリーグワンで対戦相手として戦えるのは本当に楽しいです。
――その先輩がリーグワンでレギュラーになり、今ジャパンでも活躍中です。そういう意味では代表との距離を掴めるのでは。
忍さんがいけるのであれば自分もという思いはあります。見えてきたな、とは少し思いますけど、現実は甘くないとも思います。
――エディー・ジョーンズHCとのコンタクトは。
まだありません。ただ、エディーさんが気にかけてくれているというのは聞きました。存在を知っていただけているのは嬉しかったです。
――次のワールドカップまでの逆算はしていますか。
逆算したことはなかったですが、次(2027年)のワールドカップには出たいと思っているので、確かにそれを考えると来年には代表に呼ばれないといけない。
そういう意味でも今年はチームとしても、個人としても、大事なシーズンになる。良い準備をして臨みたいです 。
2027年のリーグワン優勝とワールドカップ出場という2つの大きな目標に向かって鍛錬を続ける北條拓郎。 三重ホンダヒートで今シーズン、どのような活躍を見せるのか。今から目が離せない。
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