海老澤琥珀は、新しい環境になじむのが得意だ。子どもの時からそうだ。
もともと兄と一緒に家から遠く離れた小学校へ通っていたが、親と近所の学校へ移る話し合いをして自分だけが転校した。4年生の頃だった。
成人してから述懐する。
「シンプルに通学がだるかったので。…いいんじゃね? と」
その決断が、ラグビーを引き寄せた。
もともと通っていた小学校に近いサッカークラブを辞めると、週末の予定が空いたからと地元の世田谷ラグビースクールに入った。
千歳中卒業後は、小、中学生の頃からチームメイトの伊藤利江人と兵庫の報徳学園高へ入学。寮生活をしながら3年目には全国準優勝を果たした。
高校で一緒にプレーした伊藤、竹之下仁吾とともにいまいる明大の門を叩いたのは2023年。ルーキーイヤーからWTBのレギュラーとなった。身長173センチ、体重81キロと小柄もフットワークと運動量が買われた。
何より仲間に出会えたのがよかった。大学で出会った伊藤龍之介、瓜生丈道らの名を挙げ、言い切る。
「かけがえのない、大人になってもつるむ関係だと自分は思っていますね」
今年は日本代表の練習生になった。夏のパシフィックネーションズカップ前に加え、10月中旬からの秋のツアーへも序盤だけ参加できた。
行った先では、国内リーグワン勢のパフォーマンスや意識の高さに触れた。
ゲーム形式で動く際、ジョネ・ナイカブラとマッチアップすることが多かった。国内屈指のスピードスタート謳われるナイカブラは、コンタクトの強さとぶつかる瞬間の身体の使い方のうまさもあるのだと気づいた。
オフの日には、昨季から代表入りの長田智希からパス練習を誘われた。日々身体に負荷をかけているのに、休みの日にもうまくなろうとしているのに感銘を受けた。
「結局、その時は違うミーティングが入ってしまって行けなかったのですが、長田さんは違う人を誘ってグラウンドに行ったみたいです。(代表活動は)成長できるいい体験。嬉しかったです」
自身もそれに感化されて、セッションの後に高い弾道のキックを獲る訓練に没頭した。
さらに八幡山の拠点へ戻ってからは、アクアバックという重りを使った個人トレーニングに励んでいる。代表首脳陣でS&Cを教える、ジョン・プライヤーからもらったメニューだ。より臀部にパワーをつけ、ワールドカップ戦士のディラン・ライリーのようなランができるようになりたい。
自分の性格で獲得した今までの競技人生を、このように語る。
「何て言うんだろう…。結構、直感で動くんですけど、いい方向に行っている。ラグビーで出会う人はいい人だし。自分にとってプラスだな、と。ラグビーをやっていてよかったなと、ずっと思っています」
この秋、日本代表は強豪国に苦しめられた。努力してきた先輩たちが適わなかった相手を見て、海老澤は「世界の壁」を実感した。この「壁」を乗り越えるのに魔法がないのを知る。やるべきことをやり続けるしかない。
「80分間、食らいつき続けていたら、(強い相手との代表戦でも)チャンスはある」
12月1日には東京・国立競技場に立つ。関東大学対抗戦Aの最終節で、早大とぶつかる。
約2週間前の東京・秩父宮ラグビー場では、大学選手権4連覇中の帝京大の必死の防御に苦しんだ。28-48で今季初黒星。全体的にやや浮足立って、いつも通りに戦えなかったのも悔しかった。
リザーブで挑む今度の早大戦では、積み上げた力を発揮したい。