頼れる突破役が帰ってきた。
松田凜日である。
バックスリーの位置からダイナミックなランで華麗なクリーンブレイクを見せる、サクラフィフティーンにあっては稀有な存在だ。
前回大会のW杯の数か月前に初めて15人制の国際舞台に足を踏み入れると、瞬く間に赤白の背番号15を奪取。W杯にも全試合に先発した。
大会後は東京五輪落選の雪辱を果たすため、再びセブンズに軸足を移す。左膝の後十字靱帯を断裂した東京五輪前から慢性的に痛みを抱えていたが、今度はなんとかパリ五輪のメンバー入りを果たした。
「五輪に出たいという思いをずっと持ち続けてここまで来たので、まずは自分の目標を一つ叶えられてすごく嬉しかったです。でも結果(9位)は本当に悔しいものでしたし、個人としても大会に臨むまでの過程でもっと良い準備ができたのではないかと。やり切ったっていう感じがなくて、もっともっと成長しなければいけないと思いました」
五輪後は再び15人制にスイッチすると大会前から決めていた。だから、半月ほどのオフを挟めば「切り替えようというより、切り替わっていました」。
いまは3㌔増量するなど、身体も15人制仕様にシフトしている。
その傍ら、注意を払うのはやはりケガの予防だ。中学生の頃から思い焦がれた五輪を終えても「やり切った感がない」のは、実は大会直前にも左膝の不調に悩まされていたからだった。
「ケガからの学びで、自分の身体のこともだんだんと分かってきた感覚はあるんです。ここでやりすぎたら危ないな、と。自分の目標とする大会に出るためには、ケガをしないことが一番大事。少しずつでいいから、ケガせず毎日成長していくことが結果的に一番の近道だと思います」
ケアは人よりも入念に。加えて、半年前から毎日欠かさず取り組んでいるのが補強トレーニングだ。
あの脚力に反して、驚きの課題があるという。
「下肢の筋力が弱いことが以前からずっと課題でした。体重に見合ってないんです。膝が悪いので太ももの前の筋力は特に大事だし、お尻の筋力も重要です。空気椅子など基本的な自重のトレーニングをして、ウエートマシーンを使って太ももを伸ばすメニューもやったりしています」
万全な状態でグラウンドに立てれば、ピッチに立つ人数が変われど活躍できる。それをWXVの1戦目から証明した。
短いプレータイムながらパワフルなランでゲインを勝ち取り、早速〝らしさ〟を披露。先発した2戦目は今大会でチーム1のゲインメーターを記録した。
本人も自身の強みには手ごたえを感じつつ、先を見据える。サクラフィフティーンの戦術を遂行する上では必要不可欠なキックだ。
自主練ではバックスリーとの蹴り合いを欠かさない。
「いま一番の課題です。試合に出るためには精度の高いキックを蹴られるようにならないといけません」
次のターゲットであるW杯イングランド大会まで1年を切ったタイミングでの復帰となったけれど、焦りは禁物と言い聞かせる。
目の前の課題を一つひとつ乗り越えた先に、ベストコンディションで迎えられる、W杯がある。
(文/明石尚之)
※ラグビーマガジン12月号(10月25日発売)の「女子日本代表特集」を再編集し掲載。掲載情報は10月18日時点。