富山市南部に位置する県立富山南高校。晴れた冬の日は校舎から雪に覆われた立山連峰がくっきりと見える。校章は南十字星(サザンクロス)だ。
今年4月、創立50年を迎えた同校に一人のラグビー女子が入学した。小場咲歩(さほ)さん。学校創立以来、楕円球の部活は存在しない。話題は、男子サッカー部が2011年度の「第90回全国高校サッカー選手権」で県予選を突破し、全国大会へ進んだことか。
小場さんは学校では女子バスケット部に所属している。平日は週5日、夕方5時から部活に励む。
そして週末、県西部に位置する富山高専射水(いみず)へ駆けつけ楕円球を追う。ここは女子ラグビーチーム「富山サンダーバーズRFC」の拠点だ。
チームを率いる同校准教授の大橋千里先生が、2017年に前身のチームを作った。14名が7人制ラグビーをメインに練習を重ねている。
小場さんがラグビーを始めたのは、父・由雅さん(39歳)の影響。父は富山工業高でラグビーを始めた。ポジションはロック。高校2年の2002年度に5番をつけて砺波高と決勝を戦い、24-16で勝利。2年連続9回目の花園切符をつかみ聖地に立っている。
翌年は砺波と5-5、抽選で砺波が全国へ進んだ。今年、14大会ぶりの花園を目指したが、決勝で敗れた。
「お父さんが子供のころからラグビーボールで遊んでくれました。冬休みには花園ラグビー場の近所に住んでいる親戚の家から高校大会に連れていってくれた」。
娘が楕円の道を選ぶのは自然だったか。中学1年からサンダーバーズへ。小学生から40代までいろんな年代がいた。「だからいろんな話ができる楽しい環境」という。
高校生は3名が在籍。小杉高の1年生は柔道の強豪選手でインターハイに出場した。もう1名は高岡南高の3年生。富山南と同じ年に創設された。
今年夏、小場さんは全国デビューを果たした。8月1日から菅平高原で開催された15人制の「コベルコカップ2024 第14回全国高校女子合同チーム大会」の北信越選抜に選ばれたのだ。
メンバーは新潟県、長野県の女子選手が中心で、富山からは小場さん一人だった。ラグビーに力を入れる新潟・開志国際高の選手たちが組むスクラムに驚いた。
「15人制は初めてでした。なんで自分が選ばれたの?」という状態。167センチの身長からポジションは父と同じロックを与えられた。しかし初めてのことばかりでルール、システムも7人制とは異なる。練習についていくのがやっとだった。
「7人制はグラウンドの横幅を広く利用してアタックします、15人はボールを持つと前へ進むことが求められました。(ディフェンス)ラインの後方、空いているスペースにも対応しないといけない」
練習では、大橋先生の娘で強豪・石見智翠館高から久留米大へ進み、今秋のアジアラグビーセブンズシリーズで女子7人制日本代表として活躍した大橋聖香(ナナイロプリズム福岡)がスクラムを教えてくれた。
9チームが参加したコベルコカップでは、まず3チームずつの3グループに分かれ予選リーグを戦った。北信越はいきなり関東学院六浦高、アルカスユースなどの選手を有する強豪の関東と対戦し、7-24で敗戦。続く石見智翠館高が中心の中国にも5-24で敗れ、3位で終えた。
「ジャッカルはできたしスクラムも押すことができた」と小場さん。22番のリザーブだったが出番は無かった。
2日後の決勝リーグ。北信越は7-9位戦で北海道を17-5と下し、大会初勝利をつかんだ。小場さんがピッチに立ったのは最終戦、四国戦だ。15分ハーフの後半12分からWTBに入った。「3分間でしたけど世界が違った」。19-0で勝ち、総合7位となった。
チームへ戻ると、タテに進む動きを大橋先生やチームメートに褒められた。8月中旬には高校生から参加資格がある国民スポーツ大会の富山県代表入り。大橋先生、聖香の親子もメンバーに入った。
石川県でおこなわれた北信越予選では福井県、長野県に勝利するも、石川県、新潟県に敗れ3位。10月の佐賀開催、本大会への出場権は得られなかった。
だからこそ思いが募る。「夢は国スポに富山県代表として出ることです」。来年は滋賀県で開かれる。サンダーバーズのみんなと切磋琢磨する。
高校卒業後、ラグビーを続けるかは、まだ分からない。文系で関西地域への進学を夢見る。