うまくいった時と、そうでなかった時の違いがわかった。
ラグビー日本代表で下川甲嗣がその感覚について語ったのは10月15日。その2日前からFW陣主体で関東合宿をおこない、スクラムを繰り返し組んでいた。持ち場の3列目からの目線で総括する。
「ヒット(衝突)までのセットアップ(予備動作)にぶれがないか(が成否を握る)と感じています。バインドをした時(相手と掴み合った瞬間)に(塊が)波を打っていると(よくない)とか」
塊を作り、実際に相手と肩を合わせるまでずっと姿勢が崩れなければよい形を作れるとわかった。また、よい形を再現し続けるための心構えもわかった。
「いいスクラムが組めた次の1本が、僕は大事だと思います。一喜一憂せず、同じことができるのか…」
見据えるのは26日。神奈川・日産スタジアムでのテストマッチだ。
対峙するのはオールブラックスことニュージーランド代表だ。世界ランクで日本代表より11つ上回る3位。日本代表が1度決勝トーナメントに進んだことのあるワールドカップで、通算3度の優勝を果たしている。
この秋最大級の大一番へ、日本代表はまず攻防の起点となるセットプレーを見直し。FWだけで動いたのはそのためだ。リーグワンの浦安D-Rocksや横浜キヤノンイーグルスの胸を借り、スクラムのほかラインアウトやモールの攻防も繰り返した。
下川の述懐。
「いい振り返り、反省ができるセッションができています。(トレーニング中に)相手云々ではなく、自分たちのゼネラルな部分で小さなミスがあった。それをなくしていくのが第一歩です」
この3日間は接点の攻防もチェックした。エディー・ジョーンズヘッドコーチの唱える『超速ラグビー』というコンセプトのもと、鋭い突進と素早い援護を重んじる。
「夏までやってきたことを、いままでいたメンバーはもちろん今回から来たメンバーとも確認します。1日目より2日目、2日目より3日目と、強度を高めています。(個人的には)まだ完璧ではない。試合(オールブラックス戦)までに時間はある。どんな形でもチームのラグビーに貢献できるようにしたいです」
16日からはすべてのポジションの選手が宮崎に集まった。本番への準備を加速させる。
キャンプ前の反省も活かす。9月21日、東大阪市花園ラグビー場でのパシフィックネーションズカップ(PNC)の決勝では、フィジー代表に17-41で敗れている。防御リーダーの下川はこうだ。
「少し(組織が)崩れ始めた時に焦ってしまい、後手に回って、ペナルティーを犯したり、誰かがひとりで前に出てコネクション(左右の繋がり)を崩してしまったりしました。完璧なディフェンスはないので、少し食い込まれた時にもう1回、自分たちのシステムに戻り、1、2人目のタックルの精度を上げていかないといけないです」
代表デビュー戦の相手もオールブラックスだった。2022年10月29日の東京・国立競技場で31-38と肉薄したその一戦へ、下川は後半22分から出場していた。
以後、昨秋のワールドカップフランス大会を経験し、いまもここまで4戦連続でオープンサイドFLとして先発している。
当時といまとで、自身はどう変わったか。
一線級の舞台において、自己客観視ができるようになった。
「自分のやること、自分の特徴的にどんなことが求められているかが、より明確になっています。同時に課題もわかっているところが、以前と違うところです」
身長188センチ、体重105キロの25歳。’21年入部の東京サントリーサンゴリアスにあって、今年、社員選手からプロに転じている。その時々で「チームに必要とされる選手」でありたい。