ラグビーリパブリック

青梅の地で。[日本航空石川]

2024.10.22

左から紙谷監督、上野主将(撮影:BBM)

 元日に起きた能登半島地震から10か月が経った。

 校舎に甚大な被害を受け、避難を余儀なくされた日本航空石川は現在、東京の青梅市に居を構えている。明星大学が使わなくなった校舎を借りているのだ。

 サッカー部と同じ時間に活動しても場所が余るほど広大な天然芝のグラウンドに、食堂や体育館、自由に使えるウエート場も完備。キャンパス内には仮設の寮が建てられ、日本航空大学校の学生も合わせれば1,000人近い生徒が不自由なく学校生活を送っている。

 寮も「仮設」とはいえ、新築のアパートのよう。

「仮設と聞くと親御さんも大丈夫なのかと心配されますが、実際に見ていただくとみなさん安心して帰られます」(紙谷直樹監督)

 広大な敷地を有する大学のキャンパスらしく、施設と施設の距離が遠いのが難点だが、上野魁心主将は「体育は時間通りに始めたいので急いで着替えています」と笑顔だ。

 東京での生活にも、「もう慣れました」。学校のルールで、行動範囲は原則、青梅市内から立川駅周辺までと決まっているという。

「最初の3週間くらいは、授業で使う教室にラグビー部全員で布団を敷いて寝泊まりしていました。貴重な体験でしたし、そこで新しく入ってきた1年生とも多くコミュニケーションを取れました」

 本来いる場所になかなか戻れないのは悲しいけれど、東京に越して思わぬ恩恵もあった。関東にはご近所に強豪校がたくさんいたのだ。

「春は毎週末試合ができて、流経大柏、昌平、目黒、早実と互角にやり合えた。試合で得られるものはかなり多くて、通用した部分とそうでない部分がハッキリする。通用した部分は自分たちのものになっているという自信もつきました」

 菅平合宿前には東海大仰星や東福岡、御所実、大分東明、京都成章といった全国のトップ校が集まる久住合宿(大分)にも参加できた。参加チームが自分たちの渡航費や宿泊費を工面してくれたのだ。

 紙谷監督は「ホンマに感謝です。たくさん試合ができて、強い相手にも名前負けしなくなりました」。春の選抜大会で敗れた京都成章に、スコアで上回ることもできた。

「格上の東明などにも互角にやれて、それまで引き気味だったディフェンスでもみんながバチバチ当たれるようになりました」(上野主将)

 続く菅平合宿ではそのディフェンスに磨きがかかる。例年以上に勝ち星もついてきた。

「去年は負け越したのですが、今年は勝ち越して終わりました。結果以上に内容も良かった。ターンオーバーからトライまで持っていく形を表現できた試合がいくつもありました」

 東京に移ったことで、もう一つ良いことがあった。首都圏に通う学生のOBが、頻繁に顔を出せるようになったのだ。取材に訪れた9月上旬には、中大2年のSH久保田泰綺ら複数人が後輩に胸を貸していた。

 今季は昨季の花園で先発したメンバーの実に11人が残った。経験値が高いからこそ、「今年は菅平のミーティングもすべて選手たちだけでやりましたし、全員のゲーム理解が深まっている。去年の二千翔さん(中山前主将/現・東洋大FB)のようなタレントこそいませんが、去年よりも強くなっている実感がある」と自信をのぞかせる。

 シアオシ・ナイHCが指導する自慢のFWは、留学生のNO8エドウィン・ランギが191センチ、アルメイダ聖と立松大の両LOがそれぞれ188センチ、184センチ、FL飯澤慶大は186センチと全国でも有数のサイズを誇る。推進力のあるHO川上聖翔らFW陣が前に出られれば、上野主将とCTBコンビを組む「隠し球」(紙谷監督)のマプァエ・ウィリアムが躍動するだろう。

 2017年度以来のシード校撃破とベスト8進出を狙う上野主将は、故郷への思い入れが人一倍強い。ラグビー部では数少ない石川出身だ。

「自然も豊かですし、人も温かい。石川が好きなので、高校で県外に行くことは考えていませんでした。ラグビーやっている身としては、地元は強い県であってほしいと思っています」

 いまは遠く青梅の地で研鑽を積み、「石川」の強さを示したい。

※ラグビーマガジン11月号(9月25日発売)の「ハイスクール・シーン」掲載情報を再編集。情報は9月18日時点。

フカフカな天然芝で練習。広大なグラウンドを利用して、紙谷監督はラグビーフェスティバルの開催なども模索する(撮影:BBM)
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