今年、29歳でテストマッチデビューを果たした。ラグビー日本代表の小山大輝は、進歩を実感している。
個人練習では、道具に囲まれたボールを拾いあげて投げる。攻めの起点のSHとして、「ラック(地面で)でボールが(人の手足に隠れて)ぐちゃぐちゃになっているところでも(パスを)さばくこと」ができるようになるためだ。ダン・ボーデン、麻田一平といったコーチ陣の指示による。
仲間との連携を図るセッションで意識するのは、そのラックへの到達の仕方だ。
接点から接点への移動で速さを保ちながら、楕円球のふもとへたどり着くタイミングを微修正した。
球を持ち込んで倒れた走者が「ちょうど自分のところにボールを置いてくれるところ(瞬間)」にその場へ駆け寄れるよう、動きを制御する。そのひと呼吸で「ぐちゃぐちゃ」な状態でさばくリスクを減らし、かえってスピーディーに攻め続けられるという。
約9年ぶりに復職したエディー・ジョーンズヘッドコーチは、『超速ラグビー』を唱える。攻めては「できるだけボールは止めたくない」と求める。
小山はそれまで自分の球さばきは「速いほう」だと認識してきたが、ジョーンズのリクエストを聞くほどその考えを改めさせられる。所属先の埼玉パナソニックワイルドナイツでは、テンポを制御したり、キックに転じたりすることが多かったと思い返す。
もっと自分は速くなれるし、速くならなくてはならないと言いたげだ。
「いま、すごく勉強させもらっています」
パスの軌道、精度にもこだわる。戦術上、所定の立ち位置で待つ味方にではなく、攻防の境界線へ駆け込む味方に投げなくてはならないからだ。自分と受け手との呼吸が合わなければ、落球や後逸を招いてしまう。気を引き締める。
「(いまのチームの)強みは速いテンポでディフェンスを置き去りにできること。ハンドリングエラーを減らせばもっといいラグビーができる。ただ、(受け渡しのエラーなど)ちょっとしたところでボールを失うと、(上位国からは)一気にトライを獲られる」
防御ラインのコントロールでは高く評価される小山。いま見据えているのは、神奈川・日産スタジアムでの秋の初戦である。
10月26日、ニュージーランド代表とぶつかる。ワールドカップ3度優勝の通称「オールブラックス」だ。
北海道の芦別高でこの競技と本格的に向き合うようになった戦士は「高校でラグビーを始めたんですけど、(オールブラックスは)その時から見ていた。出て勝ちたいです」。ジャイアントキリングを誓う。
昨秋のワールドカップフランス大会の予選プールで敗退したジャパンは、今年になって首脳陣と戦術を刷新。顔ぶれも若返らせた。ジョーンズは新しくなったいまのチームの成熟に、「3年はかかる」と公言している。
今回は、発展途上の段階にしてワールドカップで3度優勝の強豪国とぶつかるわけだ。ハードな80分について聞かれ、小山は「できる限りスキルを出し、どのくらい戦えるかは楽しみです」と語る。
9月までのパシフィックネーションズカップの決勝で、日本代表はフランス大会8強入りのフィジー代表に17-41で屈している。中盤までは動き出しの速さで向こうを手こずらせ、スコア上も競り合っていたとあり、小山はこうも展望する。
「いままで20~40分はいい試合ができていながら、後半に失速する部分もありました。そんななかオールブラックスを相手に自分たちがどう戦えるかが楽しみ。勝ちに行きたいです」
チームは13日に始動している。最初の3日間はポジション別で鍛えた。その折、小山らBK陣のほとんどは宮崎にいた。圧力下におけるハンドリングを磨いたという。やがてゲームプランの落とし込み、メンバー選考を経て、来るべき日を迎えるだろう。