プレミアシップでベスト4に終わった6月9日のプレーオフ準決勝まで、小林花奈子はエクセター・チーフス・ウィメンズの一員としてイングランドにいた。
8月のアメリカ代表との国内2連戦でサクラフィフティーンに復帰。どちらも22番をつけて出場した。
「CTBのポジション争いは激しいです。新しく入った選手(弘津悠や畑田桜子など)のポテンシャルはすごく高いし、合流が遅れていた分、焦りもありました。ここでアピールするしかないと思っていました」
1戦目は負傷した畑田に代わって前半の序盤から出番が訪れるも、納得のいくパフォーマンスができなかった。
チーフスと日本代表では、求められる役割が大きく異なる。そこに適応するのに時間がかかっていた。
「サクラフィフティーンでは12番でボールキャリーやハードタックルで前に出ることを求められます。でも、チーフスでは13番として外へパスを放れる『配給者』として買ってくれている。6月まで半年間、チーフスにいたので、まだ日本用のスタイルに切り替えられていませんでした」
しかし、2戦目までの短い期間で立て直した。低い姿勢からメディシンボールを投げたり、ジャンプするドリルで、低い姿勢からパワーを発揮する感覚を体に染み込ませる。2戦目は30分弱のプレータイムだったが、激しいコンタクトで攻守に存在感を示した。
「ジャージープレゼンテーションで『これでこそコバヤシカナコだよな』と言われるようなプレーをすると宣言していました。試合後にレスリー(マッケンジーHC)が『コバヤシカナコでした』とLINEをくれて。なんとかアピールできたのかなと」
小林が初めて欧州に渡ったのは、社会人1年目の2021年。レスリーHCからの提案だった。
「負けず嫌いで、一番になりたいという気持ちがずっとありました。石見智翠館、日体大を選んだのも全国優勝したチームだったからです。レスリーさんにも日本一のCTBになりたいと話していたのですが、日本代表に選ばれた時点でそれは達成している、次のステップは世界一なのではと」
チーフスとの契約を勝ち取り、飛び込んだプレミアシップの世界は、想像以上に魅力的だった。各国の代表選手がこぞって集まる、女子ラグビーでは間違いなくトップのリーグだ。
「今までやってきたラグビーとは全く違う強度で、楽しくて仕方がなかった。あれだけの試合数(レギュラーシーズン16試合)があって、高い強度できる環境は世界で見ても特別。NZでさえ3か月程度です。練習のためにラグビーをしているのではなく、試合のためにラグビーができた。あの場に行ける機会がある限り、私は挑戦したいなと思っています」
WXV後の2024-25シーズンまではチーフスとの契約が残っている。そのシーズンが終われば、W杯イングランド大会だ。
選ばれれば初出場となる小林にとって、この世界の祭典にかける思いは誰よりも強い。前回大会はプレミアシップの決勝で前十字靭帯を断裂、大会直前で手術を決断した。
「本当に悔しい思いをして手術することを選びました。だから次出られなかったら、もう自分がどうなってしまうのだろうというくらい気持ちは強いです。もちろん出場することがゴールではないのですが、私の中ではまずワンステップとして絶対に出たい」
引き分けと惜敗に終わったアメリカ戦を踏まえて、WXVでは「しっかり勝ち切れるようになりたい」と意気込む。
「全勝してWXV1のチームをドキドキさせられるような、女子ラグビー界をかき回すような存在になっていきたいです」
(文/明石尚之)
※ラグビーマガジン11月号(9月25日発売)の「女子日本代表WXV2開幕直前特集」を再編集し掲載。掲載情報は9月18日時点。