たったひとつの体験が、時に人生を大きく変えるターニングポイントになりうる。
常総学院2年の山中俐久(やまなか・りく)にとってそれは、「ビッグマン&ファストマンキャンプ」だった。
同キャンプは背が高い、体が大きい、足が速いといった「一芸」を持った隠れた原石を探すタレント発掘プロジェクトだ。強豪校でない選手にも積極的にスポットライトが当たる。
日本ラグビー協会のユース戦略TIDマネージャーを務める野澤武史氏が発起人となり、今年で開催7年目を迎えた。
山中の目が輝く。
「大袈裟ですけど、このキャンプが人生を変えてくれました」
高校からラグビーを始め、まだ競技歴が1年に満たなかった今年の3月、同キャンプに初めて呼ばれた。
165センチ、63キロのスクラムハーフ。ファストマンの枠での選出だった。
「言葉通り、井の中の蛙でした。学校では上手い、上手いと、もてはやされていましたが、現実を知りました。自分が一番下手でした」
そのキャンプには、國學院久我山で1年時から活躍するWTB宮下隼らがいた。
宮下は1月にU18セブンズ・デベロップメント・スコッドの一員として、フィジー遠征にも参加している。
「身長や体重はあまり変わらないのに、筋肉量が全然違うし、ものすごく足が速くて、クレバーな選手でした」と面食らったが、「私はそこでくじけませんでした」と丁寧な口ぶりで続けた。
「ラグビーで上を目指したいという志を持っています。ここで負けてはいけないなと思いました。自分の武器をもう一度、考え直そうと」
答えを出した。
「ハートでは誰にも負けないようにしたいと思っています。大きい選手にもビビらずいけます。疲れている時でも、誰よりも率先して声を出す。チームを盛り上げることは常に心がけています」
2度目の参加となった7月のキャンプでも、その姿勢を見せる。寄せ集めの集団でありながら、誰よりも積極的に仲間たちとコミュニケーションを取り続けた。
同キャンプに初めて参加して以降、ラグビーとの向き合い方は大きく変わった。
「部活だけだと小学校からラグビーを続けている選手には到底及ばない」と、努力に努力を重ねてきた。
自主練は朝6時起床で始まる。場所は家の庭だ。
両親が購入してくれた専用のネットに向かい、ひたすら投げ込む。左パス100回、右パス150回を1日のノルマとした。
「利き手ではない方は1.5倍投げないといけないと聞きました」
2時間近く汗を流してから登校。授業もより真面目に受けるようになったという。
「オフザピッチが大事という指導を受けてから、寝てしまったり、友だちと話すようなことはなくしました。目上の方と話す時も言葉遣いに気をつけています」
ラグビーではさらなる向上を求め、15歳離れた兄のツテも借りた。同じ茨城県で活動する筑波大のラグビー部と繋げてくれたのだ。
「高校生でしかも下手くそな私を受け入れてくれました。3月から5回ほど練習に混ぜてもらい、中学生までが対象のアカデミー(浦安DRと連携したラグビーアカデミー)にも参加させていただいています。教えてもらったことをアウトプットできるような機会をくれました。いろいろしていただいて感謝しかありません」
筑波大の正SHとして活躍する、高橋佑太朗は憧れの存在だ。
強気なプレーと、それを実行するための体の強さは、目指すべきスタイルとも重なる。そうしたトップ選手からも指導を受けられた。
「パスの投げ方やラックに行くまで何を意識しているかなどを教えてくれました。ラグビーノートに書き留めて、寝る前に自分の頭の中で整理しています」
山中にとって2度目の花園予選は10月9日から始まる。初戦の相手は太田一。勝てば花園常連の茗溪学園とぶつかる。
目標とする1部リーグの大学への進学に向け、高いパフォーマンスでアピールしたい。