昨シーズンの開幕前、花園近鉄ライナーズに加わって数か月が経った向井昭吾ヘッドコーチに、注目すべき選手を聞いたことがあった。
その時に名前が挙がった一人が、LOとFLをこなすパトリック・タファだ。
194センチ、118キロの巨躯を活かした攻守に渡る接点の強さに加え、ひたむきさも兼ね備える25歳。
指揮官は「あれだけタフだと初めて知った。将来、日本代表になれる」と高く評価していた。
すぐさまチームの中枢に据えた。昨季はバイスキャプテンに任命、そして今季からキャプテンを託したのだ。
タファにとっては人生初のキャプテン。「光栄に思いましたし、ありがたいと思いました」と話し、思いを語った。
「ライナーズに来て今年で4年目のシーズンになりました。このチームが大好きですし、ずっとここでやっていきたいと思っています。キャプテンとしてできることは何でもやろうと思っています」
オーストラリアのブリスベンに生まれ育った。元サモア代表の父の影響で、ラグビーは常に身近にあった。
脚光を浴びたのは、地元を離れてワラターズの下部組織に加わってからだ。後にU20チャンピオンシップで準優勝を飾るU20オーストラリア代表に選ばれた。
翌年の2020年には21歳でスーパーラグビーデビューを果たす。現地での評価も上々で、キャリアは順調といえた。
しかし、この時のオーストラリア協会はコロナ禍で財政危機に瀕しており、プロ選手の給与を平均60%カットしていた。
多くの選手たちが国外へと流れる中、将来有望なタファも例に漏れなかった。
ともにU20の一員だったLOエセイ・ハアンガナ(埼玉ワイルドナイツ)、SOアイザック・ルーカス(ブラックラムズ東京)も来日を決断する。
「違う環境で、違うラグビーのスタイルを経験したい、海外でプレーしたいと思いました。幸運なことに日本から話がありました」
来日1年目はNECグリーンロケッツに所属。2年目からライナーズに移籍した。
活躍の場を転々としてきたタファにあって、ようやく肌に合うクラブが見つかったという。
「環境も良いですし、日本人選手、外国人選手問わずチームのみんなは良い人ばかり。ファミリーと感じられるチームです。この数か月はコネクションをより強固にしようと、そのための取り組みをたくさんおこなってきました。他のチーム以上にそうしたことを大事にしているチームと感じています」
キャプテンとなり、チームの良さをあらためて実感した。
「私以外のリーダーたちが自分をすごくサポートしてくれています。キャプテンとしてすごく恵まれた環境にいると思います」
心強い仲間も新たに加わっている。U20やワラターズでもともにプレーしていた今季から加入したSOウィル・ハリソンだ。
「彼とはやはりコンビネーションが合うんです。みんなを巻き込みながら、その強みを出していきたいと思っています。いろんな日本の文化を経験してもらいたいので、いろんなところに連れて行っています。焼き鳥、たこ焼きとか…」
リーダーシップはフィールド内外問わず、「行動で示したい」。
ロールモデルはいる。ワラターズ時代に同僚だったマイケル・フーパーだ。元ワラビーズの偉大なキャプテンである。
「彼はチームの仲間たちとコミュニケーションを取るのが上手なんです。ラグビーをしていない時はすごく落ち着いている。一方でグラウンドに立てば、みなさんがご存知のようにああいうプレーができる選手でした。私も彼のようなキャプテンになりたいなと思っています」
今季はグラウンドでリーダーシップを発揮できる機会も大幅に増えるだろう。
昨季まではカテゴリBの登録で出場機会が限られていたが、来日5年目となる今季はカテゴリAに変更される見込みだ。
同時に日本代表への道も開ける。「もちろん目指す」と即答だった。
「ライナーズのことが大好きになり、日本のことも大好きになりました。日本代表になって日本のためにプレーするのが、ライナーズへの最大の恩返しになると思っています」
その恩返しの第一歩が、1年でのディビジョン1復帰だ。