ラグビーリパブリック

プロになる「一丁目一番地」。本質重視の新機軸育成キャンプに潜入。

2024.10.06

計34名の小、中学生が参加した(Photo: Ken Shimizu)

 本質は伝わるのだろう。参加した面々は、トレーニングから引き上げるたびに「終わるのが早く感じた」「もっとやりたいな」と思っていたという。

 プロのラグビー選手を目指す小中学生を対象にした育成プロジェクトの「アルゴススポーツアカデミー」が第2回キャンプを8月19日からの4日間、福岡県内でおこない、九州地区などから計34名の小、中学生を集めた。

 グラウンドでは休みなく実戦形式の攻防を繰り広げた。スペースを探してキック、長短のパスを配し、受け手もそれに呼応する。

 それぞれ、自在に球を展開する楽しさ、難しさを発見していた。

「ボールを動かすと、(トライが)獲れた時は嬉しいけど、獲れなかった時は相当、悔しい。『もっと、あそこでああしたら獲れたな』ということも思いました」

 一定の型を繰り返したり、ひたすら走り続けたりするのとは一線を画した内容。小学生選手のひとりはこう実感した。

「(事前に)きついと聞いていたけど、意外ときつくなかった。でも、筋肉痛にはなっているから『きている(負荷がかかっている)』んだろうな」

 グラウンドで仕切ったのは銘苅信吾。かつて早大で教え、現在はおもに沖縄のデイゴラグビースクールを指導する青年コーチだ。育成年代へのコーチングで理想に掲げるのは、「全員が田村優、堀江翔太になったら」。日本を代表するスキルフルな選手の引き合いに出し、自ら局面を打開する技術、判断力を身につけて欲しいと考える。

 セッションでは、タックルされながら球を繋ぐオフロードパスを推奨している。

 今回、プレーしたなかには、所属先でオフロードパスが禁止されている人もいたようだ。せっかくキャンプで教えた競技の肝を皆が忘れないよう、オンライン上のサービスなどを展開できたらとスタッフは考える。

 本物を伝授するのは芝の外でも然りだ。

 グラウンドの脇には、氷を使わない循環型のアイスバスを設置。炎天下でのセッションを終えた少年少女は、はしゃぎながら約10度の水に浸かる。装置を導入したクライオコントロールジャパン株式会社の関係者は、「早いうちからリカバリーの重要性を知ってくれたら」と笑う。

 食事の時間は、管理栄養士の金子香織さんが各テーブルを回る。ビュッフェ形式の会場では、それぞれに白米をよそって計量するよう伝えた。座学で伝えた栄養の知識に基づき、各自が何をどれだけ口にすべきかについて考えるよう促した。

 ハードに身体を動かしながらほとんどのメンバーが体重を落とさなかった。それぞれ「普段から食事に気を付ければ体重が増える」と直感したようだ。 

 通常のスポーツの合宿では、次の練習で首尾よく動きたいからと十分な食事を摂らない選手が出がちだ。しかしアルゴスのキャンプは、食べ終わってから身体を動かすまでに90分以上のブランクを設ける。口にしたものを消化してもらうためだ。

 きめの細かい配慮は各所で見られた。サポート役の大人たちは毎晩、子どもの状態や翌日の進行について打ち合わせを重ねた。さらに銘苅コーチは、トレーニングを終えるたびにその一部始終を撮った録画を確認。数時間後のミーティングで端的に紹介できるよう、編集作業もおこなっていた。

 援軍にはアシックスジャパン株式会社も並んだ。足型計測、スパイクの試し履きで携わった。さらに3日目の21日には、同社が両足を支える横浜キヤノンイーグルスの田村優によるトークセッションを実現。ベーシックな技術を突き詰める大切さを伝えた。

 プロジェクトを統括するスタッフたちは、グラウンド内外で構築したプログラムをプロ挑戦への「一丁目一番地」と定義。その時々のトレンドに左右されない原理原則を皮膚感覚で掴んで欲しいという。次回以降も長期休暇ごとにキャンプを実施する予定だ。

 目下の課題は、この取り組みをいかに持続可能なものにするかだろう。キャンプの参加者数はもちろん、キャンプの哲学に共鳴する支援者も増やしたいところか。現在、活動を下支えする株式会社日建の大賀雅雄・代表取締役は、「いまは産みの苦しみ。我々の活動に共感したい、協力をしてくれるという企業様などを巻き込みながら、さらによいものを作り上げていきたい」と話した。

氷を使わない循環型のアイスバス(Photo: Ken Shimizu)
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