儀式がある。
大東大ラグビー部の4年で揃って副将を務めるリサラ・フィナウとハニテリ・ヴァイレアは、どちらかがトライを取ったら2人で面と向かってお辞儀をする。
青森山田高で一緒に楕円球に親しむようになってから、自然とおこなうようになったと口を揃える。
9月29日、埼玉・セナリオハウスフィールド三郷。加盟する関東大学リーグ戦1部の立正大戦に揃って先発した。
最初にお決まりの動作をしたのは前半5分だ。
敵陣中盤左の接点で、フィナウが足元の球を拾ってゲイン。大学でNO8から右PRに転じた「189センチ、122キロ」は、わずかな空洞を突き破る。
約25メートルを駆け抜けて5点のビハインドを埋めると、起き上がったところへ歩み寄ったヴァイレアとルーティーンに移った。ずっとインサイドCTBを任される「180センチ、100キロ」の相方は、その流れでコンバージョンを決めた。7-5と勝ち越した。
ヴァイレアは今夏に約6キロ、減量した。いまの体重は公式の「100キロ」ではなく「94キロ」のようである。
シャープな身体を活かしたのは続く13分だ。
ハーフ線付近の左中間で狭い穴場へ駆け込み、やや鋭角なパスを得てラインブレイク。「立正大のディフェンスは前に出てくる。逃げてはいいキャリーができない。インサイドに、縦に行く」との思いだった。追っ手をかわして前進した。
次のフェーズではフィナウが左端を突破。敵陣22メートルエリアへ侵入する。
最後のフェーズでも、ヴァイレア、フィナウの順に光る。
まずはヴァイレアがゴール前左端でボールをもらい、対面を引き寄せながらさばいた。元パナソニック(現埼玉パナソニックワイルドナイツ)の野口裕也コーチに教わったスキルで、板橋弦大に繋いだのだ。
ここから板橋はステップを切り、同一方向へ球を回した。バトンを受け継いだのはフィナウ。加速し、粘る守備役をハンドオフで弾き、フィニッシュした。
フィナウが立つ。2人はいつものように面と向かい、頭を下げる。その場に残ったヴァイレアがコンバージョンを決め、14-5と点差を広げた。
最強タッグは止まらなかった。フィナウは後半18分に退くまでスクラム、モール、突進で魅了し、フル出場のヴァイレアは細やかなスキル、機を見てのジャッカル、複数のタックラーを引きずっての豪快なトライで存在感を示した。
昨季5位の大東大はこの日、同7位の立正大を47-22で下した。これで開幕3連勝だ。関東のリーグ戦から大学選手権への進出枠は上位3傑で、目下8校中2位である。
フィナウは「きょう、そこまで自分のよさは出せていなかった」と満足しない。
「今季は、できるだけ怪我なくシーズンを乗り切る。全試合、出られるように頑張っていきたいです」
この午後にプレイヤー・オブ・ザ・マッチを受賞のヴァイレアも、高みを見据える。
「皆で(大学)選手権に出場したい。そして、来年の次のステップに行けるように…」
長い付き合いになった。出身のトンガではフィナウがトンガサイドスクール、ヴァイレアがトゥポウカレッジとそれぞれ違うチームに所属も、互いに日本行きを決めたタイミングで親交を深める。
来日は2018年の春。強化に本腰を入れ始めた青森山田高において、2人は初めての留学生選手となった。ヴァイレアは回顧する。
母国のトンガには降らない雪に触れ、徐々に日本語を覚え、文化祭や送別会といったイベントではリサラのピアノでヴァイレアが歌い、高校2年で初めて全国大会に出た。東大阪市花園ラグビー場での日本一決定トーナメントには、3年目も出られた。
名コンビは、大学でも一緒になった。2年時は下部との入替戦を味わうも、1部に残留して迎えた昨季からは組織力の高まりを実感する。
酒井宏之新監督のもと、グラウンド内外で規律を見直した。
夜間外出を制御するよう20時にミーティングを開いたり、廊下を歩くスリッパでトイレに入らないよう徹底したり。
指揮官はOBで現役時代に大学日本一を経験。暮らしにメリハリをつけたら勝ちやすくなるという信念を持っていた。
いまは各種のルール作りに、FLの蓑洞功志主将が主体的に取り組む。ヴァイレアは言う。
「いまは皆が主将の言うことを聞いてワンチームになっている。練習はできるだけ4年生が引っ張っています」
集団に芯が通ることで、南国のバディの動きはより白星に結びつくようになった。悔やまれるのは、この連係が見られるのは今季限りであることだ。
来年、両者は異なるリーグワンのクラブへ進む。
一緒に戦える時間があとわずかであることに、丸い笑顔のフィナウは「悲しいけれど、これも人生。分かれて、お互いに頑張ることが大事」。眼光鋭いヴァイレアは「無っちゃ悲しい」としつつ、こう締めた。
「2人が選んだ道で、(対戦相手として)一緒にプレーできたら」
まずは引き続き友情物語を紡ぐ。10月13日、今季昇格の関東学大に敵地で挑む。