2年生の秋頃だったか。嶋﨑達也監督に言われた。
「キングになれ」
筑波大で1年時から10番を担い、昨年はU20日本代表の司令塔も務めた楢本幹志朗。チームの中心選手として、下級生時から大きな役割を任されてきた。
「アタックの決定権をより自分が持つということです。FWをもう1回当てるのか、BKで回すのか。毎プレー、毎プレーで自分が納得する正解を出すように意識しています。それができれば、自ずとみんながついてきてくれる」
3年生になってからの約半年間を振り返り、「充実していました」と表情を崩す。
春には誘いを受ける複数のリーグワンのクラブを訪ね、トレーニングに参加した。日本代表やリーグワンで活躍する日本人のSOから、生きたアドバイスを得られた。
茨城に戻れば、今季から入閣したOBの鈴木啓太BKコーチ(元トヨタV・CTB)と弱点克服に励んだ。
「ディフェンスを改善しないといけないと話し合いました。練習後のアフターでタックルのスキルを教えてもらっています。体を当てる感じや追い方はだんだん良くなっていると啓太さんも言ってくれています」
春季大会や練習試合では持ち場を離れ、インサイドCTBで起用されることもあった。教育実習で4年生が抜けていたチームの事情でもあったが、楢本は好意的に受け止めていた。
「12番にもチャレンジして、プレーの幅を広げたいという気持ちもありました。自分が12に入ることで、第2のSOとしてどんどんボール動かすことができるのかなと。もちろん、最終的には10番にこだわりたいとは思っています」
嶋﨑監督からの”指令”に加え、上級生になったこともあり、「発言の機会もより増やせていますし、BKは若いので引っ張っていく存在にならないといけない。個人としてかなり成長できていると感じる」と自信を見せる。
U20日本代表を経験し、フル代表での選出を明確な目標に定めた。
そんな中で、日本代表はエディー・ジョーンズHCに指揮官が代わり、多くの大学生がキャンプに呼ばれたり、代表デビューを飾っている。同じSOのポジションには、帝京大2年の本橋尭也が練習生に選ばれていた。
「僕にもチャンスがあると思っていますし、オーガナイズや左足のキックでは負けてないと思っています。焦ることなく、まずはしっかり対抗戦や選手権で良いパフォーマンスを出す。それをエディーさんは見てくれるはず。『筑波の10番いいな、呼んでみようかな』と思ってもらえるような選手になりたいです」
個人としての思いを口にしながら、「でも」と続ける。
「いまは筑波を勝たせることしか考えてないです」
昨冬は後に準優勝する明大に準々決勝で敗れた。対抗戦で21-40だったスコアは、2か月後には7-45と離された。
その試合に楢本は鼻骨の骨折で欠場。もどかしい気持ちを抱え、シーズンを終えた。
入学してから公式戦で一度も勝てていない帝京大、明大、早大をいかに倒すか。
筑波大が長年挑む命題に対し、楢本が挙げる課題は「マインドセット」だ。
「いろんなスキルをどんどん上げていかなければいけないのですが、それ以上にマインドのところ。明治に勝ちたい、勝てるかもと思った時点でマインドでは負けています。向こうは筑波になんか負けるはずがないと思っている。自分が高校生だった時がまさにそうで、東福岡が負けるわけないという自信を持って試合に臨んでいました。それを跳ね返すようなマインドが僕らも必要だと思います」
そのためには「いい準備が必要」と続ける。
「相手のスカウティングをして、自分たちがやるアタックやディフェンスを信じて遂行する。誰か一人が練習していないことをしたり、準備していないことをやり始めると、どんどん良くない流れになる。それをどれだけチームに落とし込めるかは、10番の仕事だと思っています」
WTB飯岡建人、FB増山将がU20日本代表での活動を終え、1年時から主力のCTB濱島遼が怪我から復帰したBKは、対抗戦でも随一の強さを誇る。
夏合宿では明大を破るなど、自信を深めた。
楢本はその中心でタクトを振るう。キングになる。