意識するのは「いつも通り」。ラグビー日本代表の下川甲嗣は言う。
改めて平常心が大切だとわかったのは、7月13日の夜だった。
宮城・ユアテックスタジアム仙台でのジョージア代表戦に、FLで先発した。身長188センチ、体重105キロ。東京サントリーサンゴリアス所属の25歳は、自身にとって現体制下で初となるテストマッチ(代表戦)出場に燃えた。意気込んでキックオフを迎えた。
序盤から好コンタクトを連発した。しかし、落とし穴に出くわした。
前半17分頃に披露した、相手のジャッカルをはがすプレーが危険と見なされた。約3分後にあたる20分、レッドカードと判定されて退場。そのままフィールドに戻れず、23-25で敗れた。まもなく、次戦の出場停止も余儀なくされた。
あれから2カ月が経とうとしている。この件を境に改めたことを聞かれれば、「プレーを変えているところは特に。ただ…」としてこう続けた。
「意識は、いつも通り、です」
もともと激しさ、タフさ、賢さに定評がある。大舞台でも「いつも通り」の自分を表現すればよいと再確認した。
「あの試合(ジョージア代表戦)では、モチベーションがすごく高くて、自分で奮い立った。…やっぱり、(いまは)『いつも通り』というところを意識しています」
9月7日、埼玉・熊谷ラグビー場。パシフィックネーションズカップのプールB・2戦目で、アメリカ代表に対峙した。
大会序盤の日本代表は、世界ランクで下回る国へ若手主体で挑んでいる格好。大きく若返ったスコッドにあって、下川は防御のリーダーを託されている。
昨秋、フランスでワールドカップに初出場したこの人は、アメリカ代表を前に決意した。
「ゲームの入りから、ファーストパンチを打っていこう」
キックオフから一貫して、向こうの強いランナーに刺さった。刺さり続けた。
「自分の目の前に立っている選手が(ボールを)もらうなと思ったら、思い切って行きました」
個人的にタックルを成功させただけでなく、概ね一枚岩の守備網を整えられたのもよかった。列になって鋭くせり上がり、球を持った人へふたりがかりでクラッシュ。すぐに起き上がってまた次の列を作る。
「今週に関しては、特にアメリカ代表に対しての新しいことを採り入れたというより、(今年のチームが)いままでやってきたてきたこと(を再確認)。タックルは1人ではなく2人同時に入る。ラインスピード上げて相手にプレッシャーかけて、スローボール作ってもう 1 回いいセットをして…そのサイクルをうまくやっていこうと」
ノーサイド。41-24。予選プールの首位通過を決めた。
向こうに突破口を作られた際の布陣形勢がやや受け身になったのを課題としながら、「自いいセット(位置取り)をして、2人で入る(走者に刺さる)ことで相手のラック(球出し)をスローにする。それが、自分たちの前に出るいいディフェンスをする鍵だと思っている」。担当領域における「勝ち筋」を整理できた。
15日には東京・秩父宮ラグビー場で、ファイナルラウンドの準決勝に臨む。世界ランクでひとつ上回る13位のサモア代表が相手だ。環太平洋の実力者を、「いつも通り」の順法精神とプレー精度で凌駕したい。