ラグビーリパブリック

フィル・グリーニング新ヘッドコーチ、男子7人制日本代表をどう再建する?

2024.09.10

会見で笑顔を見せるフィル・グリーニングHC(撮影:向 風見也)

 日本文化が好きだと話す。特に「わびさび」が好きだと笑った。質素なものへ趣を感じるのだろう。

さらに「一期一会」という考え方を、コーチングに採り入れているとも語る。

 男子7人制ラグビー日本代表のフィル・グリーニング新ヘッドコーチが9月10日、都内で会見した。

 現役時代は15人制のイングランド代表、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズに選出され、7人制のイングランド代表として香港セブンズへ参戦した。引退後はシンガポールに住んだことがあり、アジアに親しい。

 今度の責務は、日本に滞在しておこなうようだ。何度も白い歯を見せた。

「選手にはスピーディーにスマートにプレーして欲しい」

 指導者としては2005年から約2年間、母国イングランドで男子7人制代表のアシスタントコーチを担った。スコットランド、アメリカの同代表にも携わった。

 特に’13年からの約10年間は、セブンズアメリカ代表のアシスタントコーチ兼ハイパフォーマンスコーディネーターを務めた。同国15人制とも連携を取った。

 ストレングスの強化に定評がある。男女の7人制日本代表でチームディレクターの梅田紘一氏は、グリーニング擁立の理由をこう述べる。

「これからセブンズ(7人制)をやる若い選手、いままでセブンズをやってきた選手に違った視点でプログラムを組んでほしいからと(就任を)お願いしました。日本に長く滞在できるのも決め手のひとつでした」

 指揮官が強調するのは、「15人制へのパスウェイ」を作る思いだ。

 目まぐるしい試合展開が魅力7人制は、ナショナルチームが世界中を転戦するタフな市場でもある。グリーニングは「セブンズの場を通してプロ意識を培ってもらえたら」とし、このように続ける。

「その意識は、(7人制日本代表でプレーした選手が)リーグワンに戻ったり、15人制の日本代表に選ばれたりした時にも活かせるものです。セブンズを使った選手強化は、私がいた頃のイングランドやオーストラリア、南アフリカといった強豪チームも活用しています」

「個人的にリサーチしたら、日本の選手層は莫大なものでした。クラブから信頼を得て、ベストなヤングタレントを見つけて強化するようにしたい」

「セブンズのゲームの様相は、この数年間で目まぐるしく動いている。フィジカル面は15人制でのそれに近くなり、ラック、コンタクトも見受けられ、選手も強くなっている。言わば、(15人制の)選手にとってますますいい学びの場になっている」

 国内リーグワンや大学シーズンと、7人制の主要大会は開催時期が重なりがち。そのため男子7人制日本代表は、フルタイムで7人制に携わってもらう選手の招集に苦しんできた。

 この長年の検討課題へも、グリーニングは真剣に向き合うという。

「カレンダーのことは理解しています。クラブや大学にいかに信頼を得てもらえるかが大事。私が、(先方にとって)『選手を(代表に)預けてもいい』と思ってもらえるようになる。日本ではリーグワンも大学もたくさん抱えているが、全員が試合に出られるわけではない。彼らの未来を考えれば、経験の場を与えることは重要です。預けてもらった選手を次のレベルに引き上げてあげることが私にとってのチャレンジです」

 エディー・ジョーンズヘッドコーチ率いる男子15人制日本代表、大久保直弥ヘッドコーチが先頭に立つ20歳以下日本代表とも繋がりを深めたい。特に、世界各国で実績を残しながら日本に造詣の深いジョーンズとは、頻繁に意見交換がしたいようだ。

「エディーには日本の若手への洞察力もある。彼の力を借りながらいい選手を見つけ、私の側で育てることもしたい」

 今夏のパリ五輪は最下位に終わった。’28年のロス五輪へは「小さなステップの積み重ね」が必要だと語った。

 険しい道のりを歩む。世界最高峰の国際サーキットであるワールドシリーズでは、昨年、自動降格している。いまはチャレンジャーシリーズを主戦場とする。7日からの2日間、指揮を執ったアジアシリーズの韓国大会では、カップ準決勝でホンコン・チャイナに敗戦。3位となった。

 まずは2年以内に、ワールドシリーズのコアチーム(常時参加組)入りを目指す。

 グリーニングは「(前職時代の)アメリカの選手はアスリートだがパスはできない。日本は逆」と、この国ではフィジカリティを鍛え直すのが急務と見る。これから構築するコーチンググループには、肉体強化やスピード強化の専門家を海外から呼び寄せたいとも考えている。

「男子7人制日本代表からはスキルセットやタレント性は見いだせますが、フィジカリティとコンタクトは足りない。そこを強化しないとチャレンジシリーズに臨めない。ここからの2年間でスタンダードを設定し、手間を取らずにワールドシリーズに戻り、五輪に備え残りの2年を過ごしたい」

 イングランドとアメリカの男子7人制代表に携わっていた際のヘッドコーチ、マイク・フライデー、男子15人制ウエールズ代表を率いるウォーレン・ガットランドら、複数の名将と親交が深い。グリーニングは今回、初めてヘッドコーチ業を担うが、そのことへの不安はないという。

 会見後の写真撮影でガッツポーズを求められると、微笑みながら「恥ずかしい」と辞退した。

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