神奈川県出身で桐蔭学園高ラグビー部のレギュラーだった中山大暉は、進路選択に迷わなかった。ずっと慶大に憧れていたからだ。
地元に近い日吉で活動していた日本最古豪のクラブでは、少年時代の親友の父親がコーチをしていたこともあった。馴染みが深かった。競技実績で入学できるスポーツ推薦制度がないこのチームへ、中山は「チャレンジ」した。不合格の可能性があるAO入試に臨んだ。
2021年度に入学すれば、想定していた以上の学びがあった。実業界やラグビー界で活躍する先輩に出会えた。角度の異なる話を聞き集めることで、自分が将来、何がしたいのかがクリアになった。
4年目にはチームの主将となった。身長176センチ、体重105キロの国内屈指のHOは、国内リーグワンの関係者からの注目の的だった。ただ、一線級でプレーするのは今季限りにする。今年の「6、7月」に決めた。
就職活動で第一志望の総合商社から内定をもらい、その道へ進むことにした。
OBで卒業後にスパイクを脱いでいた青貫浩之監督に、「自分の感覚で決めたらいいよ」と背中を押された。
ラグビーを辞める道、ラグビーを続ける道、どちらを勧めてくれた人にも感謝したいと本人は言う。
「(自身をスカウトしたリーグワンの採用担当者には)商社に行くか迷っていますとお話ししている中でもお声掛けいただいた。そのおかげで、今年ラグビーをするモチベーションが上がりました。プロのリクルーターの方に見ていただいているのだから、もっと頑張らなきゃいけないと思えました」
振り返れば、高校3年時に全国高校ラグビー大会2連覇。同期の主将は佐藤健次だった。やがて早大の主将となる佐藤は、高校までNO8ながら大学2年からHOに転じた。
HOはスクラムでは最前列中央で仲間を束ね、ラインアウトでは捕球役へのスローイングを担う専門職。中山と同じ位置でもある。
佐藤は将来の可能性を広げるべく転向。早大の主将となった今年は、その位置で日本代表に選ばれた。中山はこうだ。
「彼が大学に入ったら(HOを)やることは(予め)聞いていた。高校では一緒にスローイングを練習することもありました」
早大と慶大がぶつかる伝統の早慶戦では、元チームメイトの中山と佐藤が対面でぶつかる。
これからラグビーで世界に挑む佐藤に、これからビジネスの分野で新しい世界を築く中山が対峙できる機会はそう多く残っていない。
加盟する関東大学対抗戦Aの早慶戦などで揃ってメンバー入りするのが、対決実現への条件となる。中山の入学以降、秋の早慶戦では1度も勝っていない。
「慶大は、佐藤健次にやられることが多い。チームメイトからも『頑張って』と言われます。最後は、勝って終わりたいです」
こう語る中山にとって最後の対抗戦は9月15日、茨城・ケーズデンキスタジアム水戸で始まる。相手は筑波大。その順位は8チーム中4位と慶大よりひとつ上回る。
船頭は勇ましい。対抗戦終了後の大学選手権にも進み、全国4強入りを目指したいという。
「(現役生活は)長くて残り4~5か月。チームが目標とする大学選手権ベスト4以上を達成したら、自分も後悔なく終われる。そのためにプレーでも、言動でもチームを引っ張れるようにしています」