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東海大・近藤翔耶共同主将 過去の名言は「美化」されている?

2024.08.31

東海大学の共同主将を務める近藤翔耶(撮影:向 風見也)

 今季の東海大ラグビー部は一味違う。現場はそう言いたげだ。

 加盟する関東大学ラグビーリーグ戦1部では6連覇中も、シーズン最後の全国大学選手権では2021年度を最後に4強から遠ざかっていた。関東大学対抗戦A、関西大学Aリーグから参戦する猛者の後塵を拝していた。

 捲土重来。今季は原点に立ち返る。まずFWを鍛える。

 スケジュールを見直した。早朝のポジション練習を、レギュラー組と控え組が違う曜日に実施するようにした。コーチの指導が行き届きやすくするためだ。

 振り返れば、東海大はFWの激しさを土台に強化してきた。2015年度から2季連続で選手権決勝に進んだ際は、王座につく帝京大と激しいフィジカルバトルを繰り広げていた。

 近年、その強みは影を潜めていたような。原因のひとつは、2020年以降のウイルス禍だ。昨季までの上級生は、下級生の頃に練習が制限され十分な鍛錬を積めなかった。この流れが自軍に大きく影響したと、木村季由ゼネラルマネージャー兼監督は見る。

「うちは、叩き上げじゃないですか。鍛えて、鍛えて、鍛える。4年生になって初めてファーストジャージィを着る選手もいるだけに、必要な時間(大舞台に上がる前の下積み期間)というものがあるんです。それが…」

 近年はこの問題を解消させつつある。一定の期間が経ったいま、朝のセッションの見直しもあり上昇気流を作りつつある。木村はさらに展望する。

「セットプレーはまだ発展途上ですが、冬に向けて階段を上がっている。大分、計算できるようになりました。(夏は)しっかり敵陣に入るゲームプランを実行するための、『こういうことをしなきゃいけない』についての曖昧さを消す時間だと思いました。そこを、(練習で)やり込んできた。うちは、ロースコアの緊張感のあるゲームをやらないと。対抗戦、関西のいいランナーにいいように走られてはいけない。それを念頭に置いてやっています」

 積み上げた力を最大限に引き出すべく、共同主将制を敷く。

 まずBKからは近藤翔耶。東海大大阪仰星高で同じ役目を担ったCTBだ。身長180センチ、体重90キロでスキルと運動量に長ける。

 FWでは熊本の九州学院高出身の汐月佑心。身長172センチ、体重93キロと小柄も鋭いタックルが光る。3年生で元東海大大阪仰星高主将の薄田周希とともにFLへ入り、堅陣を築く。

 今年度のリーダー2人について、指揮官は「(近藤は)明るいなりに芯があり、(汐月は)超が付くほど真面目で正しいことをやる。2人がいることで、雰囲気がいい」。近藤も頷く。

「FWに主将を置くことで、FWで勝つことを打ち出したかった。副将は、少し立ち回りが難しいんです。ただ共同主将になることで、お互いが前に出て戦える。運営は主務に任せ、僕はラグビー面でのミーティングを主導します。汐月は、愚直に、真っすぐ、正しいことを皆に発信する。模範となる選手です」

 熱さと冷静さを兼備する近藤の様子に、目を細めるのが岡村優太だ。4年のWTBだ。母校の東海大大阪仰星高でも同級生だった近藤について、こう補足する。

「高3の時は情熱的。いまは分析し、的確に指示している」

 振り返れば近藤と岡村は、高校生活最後の冬に伝説を残している。

 ‘21年1月3日。東大阪市花園ラグビー場での全国高校大会の準々決勝で、宿敵の東福岡高と激突した。本来なら60分で終わる高校生のゲームをロスタイム18分も含め計78分、繰り広げ、21―21とドローで終えた。

 抽選で敗退すると、主将だった近藤は報道陣へかように告げた。

<試合中にノーサイドが先に来ていた気がする>

 以後、この物語と名文句は各所で伝えられた。岡村もこう述懐する。

「ノーサイドが先に。これは本当にその通りで、ラグビーの根本的な大切さを知った試合でした。相手がいるから成長できるし、相手がいなかったらそもそもラグビーというスポーツがない。お互いを尊敬してプレーすることについて、考えさせられました」

 かたや近藤は、自ら残したフレーズを「うーん…。あれはあれで、一部で美化されていて…」と相対化。学生ラストイヤーへの思いに繋げる。

「あの日は、ゲームで勝ちきれなかったという思いがずっとある。あそこのゲームの綾というものを、身をもって体感している。その反省を活かしてやっていきたいです」

 菅平合宿中の8月24日、2季連続4強の京産大と35-35と引き分けた。

 終盤にあわやサヨナラトライとなるスコアをマークしながら、直後のキックオフの末に追いつかれるなどややばたついた。

 ただ、手ごたえも掴んだ。中盤での連携攻撃で主導権を握ることもあり、向こうの強みであるスクラムで反則を奪えた。近藤はこうだ。

「ラグビーを『流れ』でやらずひとつひとつ組み立ててやるということが、今年はよりできていると思います」

 見据えるのは悲願の日本一。前年度までの過ごし方を踏まえ、「他のリーグのチームは(より強豪がひしめき)僅差の試合で揉まれている。それに対し、(東海大は)勝負強さに欠けていた」と近藤。「夏に色々なチームとタイトなゲームを経験することで、それを身に付けられる」と締めた。

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