初めてラグビー日本代表に選ばれた。アイザイア・マプスアがその吉報を受けたのは8月6日の朝だ。
その時はちょうどゴルフコースにいた。所属するトヨタヴェルブリッツの同僚であるティアーン・ファルコンと回っていたのだ。
「(報せを聞いて)緊張してしまって、スコアは全然よくなかったです」
話をしたのは12日。招集された宮崎合宿のメディア公開日にあたる。
現代表は「ロケットスタート」と呼ばれる早朝練習を皮切りに1日複数回、グラウンドやジムでセッションをおこなう。
タフな日々を過ごす感覚はどうか。マプスアは即答した。
「大学時代と、似ていますね」
母国ニュージーランドから2019年に来日して最初に入ったのは、慶大の体育会クラブだった。日本でこの競技を始めた場所として知られ、時代によっては夏場の通称「地獄の山中湖合宿」が名物とされる。
マプスアもこの「山中湖」を体験しているとあり、初めて入ったはずのナショナルチームで既視感のようなものを覚える。
「たくさん練習する環境は、大学に近いと感じました。いま、早起きが大変です。普段は違うので!」
身長191センチ、体重112キロの23歳。’23年3月にはヴェルブリッツの一員として、国内リーグワン1部でデビューした。大学卒業直前の選手が公式戦に出られる、アーリーエントリーの制度を利した。
ヴェルブリッツでは、自身と同じFW第3列の位置を担うワールドカップ経験者から多くを学ぶ。
南アフリカ代表であるピーターステフ・デュトイの仕事量、CTBやFBとしても日本代表でプレーしたことのあるウィリアム・トゥポウのハードな防御、一時は日本代表の主将を任された姫野和樹のパフォーマンスを通してのリーダーシップにインスパイアされる。
「それぞれの『おいしいところ』を学習しています」
今秋までの代表復帰が待たれる姫野からは、「直接、会って話すことはできなかったけど、(初選出へ)おめでとうとメッセージをもらいました」とのことだ。
約9年ぶりに復職したジョーンズ率いるチームは、体制初となるツアーを7月まで実施した。その終了を合図にLO兼FW第3列のリーチマイケル主将が休養。代役候補にマプスアが挙がった。
「大学の頃は卒業することだけを目標にしていましたが、その後はいいラグビーをしていたら(代表入りの)機会は巡ってくると思っていました」
日本時間26日から参加のパシフィック・ネーションズカップに向け、「いま、課されたチャレンジに対抗しています」と話す。
「日本のベストな選手たちが集まっている環境で、(試合登録の)23枠を争う激しい競争があります。それを私は最大限に楽しんでいます。(アピールしたい点は)ボールキャリーといいセットピース。また、フィールド上での動きを多くしたいです」
視線の先には、’27年のワールドカップオーストラリア大会を見据える。
「トレーニング中から、自分の技術に自信を持ってプレーします。ワールドカップで戦うことは夢のひとつです」
ちなみに現在、宿泊先の同部屋には下川甲嗣がいる。昨秋にフランスでワールドカップへ出場した2学年上のFW第3列だ。兄の桂嗣さんは、くしくも慶大OBである。マプスアは「それは知らなかったです」と目を丸くした。