姫野さんに似ているねー。
そう「立命ラグビー」の先輩たちに言われる。石橋隼(はやと)は端正な表情を崩す。
「うれしいです。お会いしたことはないけれど、尊敬しています」
先輩のひとりは古川聖人(まさと)だ。
古川は2か月ほど前まで、その姫野和樹とリーグワンのトヨタVで同僚だった。今は横浜Eに移った。
姫野はFW第三列。日本代表の中核で国際試合出場を示すキャップ数は32。その鼻筋は通り、ほほは緩む。器の大きさを漂わせる。
石橋は立命館の3年生LO。ラグビーでは無名の公立高校出身だ。一般入試を経て入学した。プレーは粗削りながら、姫野にその顔つきと同じように似る要素を持っている。
石橋を指導するのは中林正一(まさかず)だ。立命館のOBコーチである。
「タックルは、自分もつぶれるんじゃないか、と思うくらいの激しさがあります」
石橋の体格は190センチ、104キロ。身長は姫野を3センチ上回る。
中林は45歳。HOとしてヤマハ発動機(現・静岡BR)で日本代表キャップ4を得た。そのコーチングを受け、石橋には本格化の兆しがある。昨年、秋のリーグ戦デビューを果たす。11月19日、29-34で競り負けた関大戦だった。FLとして先発する。
今年は西軍学生26人のひとりに選ばれ、先月30日、東西学生対抗戦に出場する。関東ラグビー協会が創立100周年を迎えた記念試合だった。
「いい経験をさせてもらえました。すごい選手たちが集まっていたし、お客さんも多かった。秩父宮での試合も始めてでした。でも落ち着いてプレーはできたと思います」
交替出場ではあったが、後半43分にはトライも記録した。24-63と負け試合の中でも気を吐く。翌週、7月6日の関西春季大会でも交替出場。33-13で関大を破り、8チーム中5位とすることに力を出した。
石橋はタックル時のケガ防止の観点から、個人練習では首や肩周りを鍛え続けてきた。
「練習内容は首を押さえてもらって跳ね上げたりする基本的なものです」
長い時は45分ほど取り組む。ほぼ経験のなかったベンチプレスは60キロから130キロ近くを差し上げるまでになった。
体を鍛え上げ、実績を積み、姫野に近づこうとする理由は、同郷の愛知県出身ということもある。高校は姫野が中部大春日丘、石橋は昭和だった。石橋の3年時、高校最後の全国大会予選は、3回戦でその中部大春日丘に0-74で敗れている。
石橋の通った昭和は進学校であり、ラグビー入学はない。競技を始めたのは中学の浄心(じょうしん)だった。
「塾に通い始めたこととの兼ね合いでした」
元々は校外のクラブでサッカーをしていたが、校内の部活なら、練習にゆく時間もかからず、月謝も必要なくなってくる。
中2から始めたラグビーは楽しかった。
「相手に思いっきりぶつかれました」
高校入学時、身長はすでに180センチ近くあった。サッカー出身でキックができる、ということもありBKを任された。
そのため、立命館入学時はCTBだった。中林はFWに移した理由を話す。
「サイズのある選手がいませんでした」
190センチの身長は相手に対しての威嚇にもなる。1年の中ごろからFW第三列。3年で本格的に第二列に上がった。
石橋はコンバートを歓迎している。
「LOはしっくりきています。CTBよりボール出しに関われます」
格闘的な部分が軸になるため、体を作る上において日々の食事は欠かせない。
「アスリート食をいただいています」
アスリート食とは学食で出る栄養価の高い特別食のこと。専用寮を持たないラグビー部のため、基本的に朝夕2回提供される。
下宿に戻れば、「学生の本分」の勉強がある。石橋は理工学部に籍を置き、上下水道などを中心に都市計画を学んでいる。
「レポートを書いていたら1時、2時になります。時にはオールになります」
徹夜をさらっと口にする。
「これまでフルの88単位を取りました」
専用寮がないことは石橋にはプラスに働く。邪魔が入らず、その学びに集中できる。
息抜きはツーリング。ホンダのCB400を駆って、父や兄と郊外を回る。
「春休みには岐阜のダムに行きました」
充実のキャンパス・ライフがある。
オンとオフの切り替えを上手にやりながら、チーム目標を口にする。
「選手権に出て、国立でプレーすることです」
この冬、61回目となる大学選手権での4強入りを掲げる。その4校に入れば、東京の国立競技場で戦える。
立命館の大学選手権出場は19回。4強進出はまだない。直近の出場は55回大会(2018年度)。初戦の3回戦で明治に19-50で敗れた。その選手権に出るためには、秋の関西リーグは3位以内に入らないといけない。石橋の1年時は6位。2年時は5位だった。
大化けすれば、石橋はこの黄紺ジャージーを新しいステージに上げるひとりになる可能性を秘めている。その先には自身が望むリーグワン入りが続く。日本代表でもある姫野にその表情はもちろん、プレーもさらに似させてゆきたい。