6月30日、15年ぶりの「学生東西対抗」が、関東ラグビー協会100周年記念試合のトリとして秩父宮ラグビー場でおこなわれた。
西軍の先発メンバーPR1番を背負ったのは関西学院大4年黄世邏(ファン・セラ。以下セラ)。関西大学リーグの実力者だ。セラは前半40分間のみの出場だったがこの催しに感謝した。試合は東軍が前半6、後半3トライを奪い63-24と圧勝していた。
「今日は楽しかった。親友も応援してくれました」。セラは笑顔で話す。
セラは愛知朝鮮中1年から楕円球に親しんできた。高校は「強くなりたい」と愛知県の強豪・中部大春日丘に進学する。
スクラムなどフォワード第一列に必要なスキルを向上させた。高校3年、2020年度の全国高校大会。セラは、年が明けた1月1日、3回戦で大分東明高を40-17で下し、春日丘初の8強入りに貢献した。3日の準々決勝は準優勝となる京都成章高に3-14と惜敗。
大学は関西学大へ。2023年、3年生の春には5月3日、8日、13日にアピア(サモア)で開催された「ワールドラグビー パシフィック・チャレンジ2023」に出場するジュニア・ジャパンへ選出された。第2戦のトンガA代表戦、リザーブとなりサクラのジャージーを着た。最終戦のマヌマ・サモア戦では右PR3番でピッチに立った。
今年、最終学年となる。関西大学ラグビー春季トーナメントでは準決勝で天理大を43-28(前半19-14)で下した。今週末(7月7日)に京都産業大と覇権を争う。その前週、西軍は、次はお互い戦う相手とチームを作り秩父宮へ遠征していた。
セラの親友は、朝鮮大ラグビー部4年LOの閔宰東(ミン・チェドン。以下チェドン)。チェドンはその日、朝大ラグビー部員と一緒にバックスタンドにいた。関東大学リーグ戦2部の朝大。12時キックオフのリーグ戦2部以下選抜-対抗戦B選抜のセブンズに大阪朝鮮高出身4年金秀鎮(キム・スジン)、3年文銘一(ムン・ミョンイル)がメンバー入りしていた。さらに東西対抗には、大阪朝高出身の帝京大4年SH李錦寿(リ・クンス)と明治大4年FB金昂平(キム・アンピョン)が先発した。
チェドンらは昔からの仲間たちを精一杯、応援し続けた。「セラのプレーを生で見るのは初めてで感慨深かった」という。2人は小学校3年生の時に出会った。愛知朝中でセラはラグビー、チェドンはサッカーを選んだ。「時々、部活を抜け出して二人で遊びに行きました」(チェドン)。高校は愛知朝高へ進む。そして朝大入学時に先輩たちにほだされて楕円球を選択し今に至る。お互いにラガーマンとしての会話もできるようになった。どこかで戦える機会があれば嬉しい。
「(実家に)帰ったら何して遊ぼうかなど他愛のない話をしました」。セラはすでに卒業後、国内最高峰リーグワンのチーム入りが内定している。
東軍では、SH李錦寿(クンス)とFB金昂平(アンピョン)が聖地で実力を見せた。実はこの日、クンスには希望があった。弟で朝大2年CTB智寿(チス)が東軍のメンバー候補になった。しかし予定されていた代表を選ぶ練習はおこなわれず、関東大学春季大会出場校の選手が選出された。春季大会に出場しなかった朝大の弟は涙を飲んだ。兄から弟へのパス交換は夢に終わった。試合前、朝大応援団を訪れた。クンスも首都圏のリーグワンチームへ加入する。
アンピョンは前半20分にチーム3トライ目を決めると、2分後には連続で仕留め勝利に貢献。2人と大阪朝高3年時に花園大会でベスト4に躍進した選手が多い朝大応援団が沸いた。
セブンズに出場した金秀鎮は前半3分にインゴールでダイブし、先制トライを奪った。「去年の大会でチスがダイブで決めた。真似しました」。しかしチェドンは笑う。「チスと比べて全然、飛んでいない」。今春、クボタスピアーズ船橋・東京ベイを退団したWTB金秀隆(スリュン)が兄だ。文銘一とともに最初は緊張したが楽しんだ。