左目の下が黒ずんでいた。あざだ。
「今週の練習で…」
身体を張って作った勲章について語ったのは、下川甲嗣である。
日本代表と絡むJAPAN XVの一員として、6月23日から約1週間の福岡合宿へ参加。28日の夕方までに上京した。
29日には東京・秩父宮ラグビー場で、対マオリ・オールブラックス2連戦の第1試合に出場。6番のFLを担う。
「自分の強みはワークレート。フィジカリティは他の日本代表の同じポジションの選手に劣る部分はあるのですが、日本人は、プレーの反復、連続性、しつこさで勝負しないといけない」
本隊の日本代表は6月22日、東京・国立競技場で現体制の初陣を迎えた。
イングランド代表に17-52で敗れたその一戦でメンバー外だった下川は「最終的なスコアの差は大きかったですが、自分たちの目指すラグビーが――得点に繋がらなかったにしても――いい形でできた部分もあった」と振り返った。
「自分と同じポジションの選手がいい形でボールをもらって、ゲイン(突破)する場面もありました。1回の仕事をしただけで終わるんじゃなく、セカンドエフォートでいい働きもしていた。そこは、自分にとっても勝負のポイントです。質の高い仕事をしたいです」
今度の秩父宮でのナイトゲームは、イングランド代表戦に出られなかった下川たちにとっては次の代表戦へのオーディション会場でもある。先発のFWに入る8人中7人が国内出身者。昨今の日本代表やそれと関係するチームにあっては、珍しい座組みだ。
ラグビー王国の名手たちの群れに、ハードワークと素早さで対抗したい。スターターに2メートル超の長身がいない中でも、空中戦のラインアウトを安定させるつもりだ。
身長188センチ、体重105キロの25歳は続ける。
「(相手より)速くセットし(位置につき)、隙があれば捕れるところで捕るのを最優先にする。体格と関係なくできるところ(に集中)。リフト、ジャンプ、ムーブという細かいところ(技術)も意識します」
初めて代表活動に絡んだのは2022年。当時のジェイミー・ジョセフヘッドコーチのもと、勤勉かつタフで聡明なキャラクターが買われた。
現在のジャパンは体制を刷新している。約9年ぶりに復帰のエディー・ジョーンズヘッドコーチは、「超速ラグビー」を唱える。本格始動は6月6日。「ロケットスタート」と呼ばれる朝6時からの鍛錬も特徴とする。
ジョーンズ組ならではの特徴を聞かれ、下川は「朝が早い」「ミーティングではディスカッションの要素、考えを共有する機会が常にある。練習後にもよかった点、改善点を話し合うパートがある」と答える。
ジョセフ組と似た点については、「何だろう…」と黙考する流れで述べた。
「世界一ハードな練習をすると(指揮官が)言っていたところは、共通しています」
福岡県の公立校、修猷館高の出身だ。本格的な全国規模の戦いを経験したのは早大に進んでから。名門校のエリートとは異なる背景を持つ。
ある日、これからプロを目指す子どもたちにメッセージを求められる機会があった。その際には、自身のキャリアを振り返って語った。改めて、自分を見つめ直した。
「トレーニングなどの知識がないまま(広い)世界に飛び込んだことで新鮮な気持ちにもなりましたし、周りとの差を埋めるべく必死になれた」
‘21年から所属の東京サントリーサンゴリアスでも、ブラッシュアップを重ねてきた。
ワールドカップフランス大会後に始まった今季の国内リーグワン1部では、閉幕まで体重を落とさぬよう自らの食事とリカバリーを厳しく管理。昨季終盤より「2キロ」も多い状態でゴールテープを切り、現在の代表関連活動に突入できた。
頑張る日本代表の頑張る選手として、以後の戦いでも存在感を示す。