代表戦はシビアだ。挑む側にとってはなおさらである。
ラグビー日本代表がその現実を思い知ったのは6月22日。東京・国立競技場で、非テストマッチを含め過去11戦全敗のイングランド代表に17―52で敗れた。
チャンスを逃したのが悔やまれた。この日は前半に敵陣22メートルエリアに入った回数は両軍ともそう変わらなかったものの、その場で点を取った回数に差がついた。
日本代表は6、9分頃にはトライラインの近くへ迫りながら、モールを阻まれスコアならず。FLとしてジャパンデビューのティエナン・コストリーはこうだ。
「(球に相手の手が届かないよう)長めのモールを作りたかったんですが、相手に捕まったり、倒れたり」
何より手痛かったのは、3―7と4点差を追っていた20分頃の場面だ。
敵陣中盤右中間のスクラムから、SOの李承信のピンポイントのパスで右の区画を攻略。ここで受け手となったWTBのジョネ・ナイカブラが、人垣にチャレンジしながら落球した。
日本代表は、直後の守りでも反則を犯した。
するとイングランド代表が、左のハーフ線を越えたあたりでのラインアウトから突破。用意されたムーブを繰り出す。14点目を刻んだ。
日本代表は好機を逸した直後、イングランド代表に好機を活かされたのだ。
以後はしばらく、イングランド代表の通常運転を許した。
ハイボールとその落下地点での球の奪い合いでは、時間が経つほどに劣勢に回った。李は悔しがった。
「自分たちでキャッチしてからのアタックを準備してきたのですが…」
SOのマーカス・スミスの「50・22」のキック、タックラーを引き寄せながらのパス、意表をついての足技にも手こずった。
ハーフタイムの前後には自分たちの規律、防御のノミネートも乱し、後半11分で3-38と勝負をつけられた。
それでも敗軍陣営は、前向きだった。LOのワーナー・ディアンズは言う。
「いいチャレンジができた気がする。間(ハーフタイム前後)の40分間がちょっと微妙だったし、スコアを見るとあまりよくないと思うけど、いい感じはするっす」
日本代表は現体制発足から1か月足らず。有力候補が相次ぎ辞退したのもあり、初キャップの選手はメンバーの23名中8名にのぼっていた。イングランド代表は全選手がデビュー済みだった。
経験値に差があったなか、ホスト国のチャレンジャーがコンセプトの「超速ラグビー」の一端を示せた。その事実が、負けた側をあまり落胆させなかったのだろう。
前半5分頃。日本代表は中盤左のグラバーキック再獲得から勢いをつけ、ループ、オフロードパス、狭い区画での数的優位を活かす連係技でさらに加速する。敵陣22メートル線を通過後も、接点周りでの突進、防御の死角での繋ぎが冴えた。
大差をつけられていた後半26、29分には、個人技をきっかけにフィニッシュした。後者のシーンでは、ディアンズの長い手を活かしたパスキャッチ、優雅なランニングが光った。
同25分までプレーしたSOの李承信は、確信できた。
「ゴール前までに行くプロセス、モメンタム(勢い)にはいい手応えがありました。自分たちが積み上げてきたものが発揮できた」
抜擢された面々が好感触を掴めたのも確かだ。
攻防の起点となるスクラムでは、左PRの茂原隆由、HOの原田衛というこの日初陣の若者が試行錯誤を繰り返した。
加えてスタンド下のミックスゾーンで、エディー・ジョーンズヘッドコーチに「ニホンデイチバン、ニンキノセンシュ」と肩を叩かれたのは竹内柊平。茂原、原田とともに最前列に入った先発の右PRである。今回で4キャップ目。
長らく遠い間合いで組まされ、自立できずに崩れ落ちることもあったが、交替する直前の一本では押し込み、ペナルティーキックをもらえた。
高さの微修正が奏功したと、本人は振り返る。
「(国内の)リーグワンの時のような低さで組むと(遠い間合いから押しつぶしたり、引っ張り込んだりしてくる相手との関係上)落ちる。それが、きょうの僕でした。(試合中に)衛、茂原と話して『軽く、高めに組もう』と。そうしたら、最後のスクラムになった」
かねてNO8のリーチマイケル主将は、「言い訳なし」とこの午後の白星のみを見据えていた。いざ、欲しいものが手に入らなかったのを受けて…。
「この経験は、自分たちの財産になる」
目の当たりにした現実が悪いものばかりではなかったと強調する。