ラグビーリパブリック

【コラム】キャプテンというポジション。

2024.06.20

2019年6月から東芝ブレイブルーパス東京のヘッドコーチに就任したトッド・ブラッカダーHC(撮影:矢野寿明)

 はしゃがない。ちょっとだけ口元で笑う。シルバーと描写したくなる白髪がこうなるとますますいかしている。

「かっこいい」

 ある放送関係者の独り言を会見場で聞いた。続けて「こういうふうにトシをとりたい」。きっと容姿のみにあらず。たたずまい、いくらか大げさに記すなら、人生の態度がそう思わせるのだろう。

 トッド・ブラックアダー。52歳。東芝ブレイブルーパス東京のヘッドコーチである。リーグワンのファイナルを制しても、たとえば晩夏の府中での練習試合の直後と変わらぬ風情で優勝会見に臨んだ。

「このために生きてきたと思えるような人生において忘れられない瞬間を味わうことができました。みなさん、ありがとう」

 あらためてトッド・ブラックアダーはオールブラックスやクルセイダーズの元ロックである。現役時代にインタビューした。「プロになる前は航空関連の貨物係だった」。歳月を経て、あの一言を妙に思い出す。

  以下、いくつかのデータを並べたい。そこにブレイブルーパスの戴冠ヘッドコーチの歩んだ道が浮かぶ。

 国代表で25戦に出場。ただしテストマッチは12試合にとどまる。デビューは1995年の対イタリアA代表。イングランド戦で初キャップを得るのはその3年後である。計14ゲームでキャプテンを務めている。

 サイズ。190cm・100kg。キリのよい数字だ。高くも重くもない。フランカーやナンバー8のスピードとも距離があった。

 なのにオールブラックス。よい選手だからだ。そして、ここが大切なのだが、もっとよいリーダーであった。

 24年前の6月、ちょうどいまごろのニュージーランド・ヘラルド紙の記事が興味深い。

 前年のワールドカップにおいてオールブラックスは準決勝でフランスに敗れた。31-43。衝撃の結果だった。タイネ・ランデル主将のリーダーシップは批判された。

 新しい体制では誰をキャプテンにするべきか。

 第1回ワールドカップの優勝監督、サー・ブライアン・ロホアは述べる。

「いまトッドはニュージーランドで最高のリーダーだ。2、3年前からそうだった」

 レ・ブルーにしてやられた悪夢の準決勝。代表入りを逃がしたブラックアダーがフィールドにいたらパニックを避けられたはずだ、との意見は根強かった。

 オールプラックスの元FW第3列、ジョン・グレアム(1989年度、清宮克幸主将の早稲田大学をグラハム・ヘンリ―とともに指導)も言う。

「無条件にブラックアダー」

 元ロックのご意見番、アンディ・ヘイデンの見解は異なる。

「ブラックアダーはテストマッチのロックとしては、サイズ、身体能力、さらに4つのロックの仕事であるラインアウト、スクラム、ラックおよびモール、キックオフの確保において水準に達していない」

 さらに言い切った。

「自動的にテストマッチに選ばれる者を最初はキャプテンにしなくても、試合に負ければすぐに選ぶことになる」

 同じく元FW第2列のギャリー・ウエットンは。

「もしブラックアダーが世界のトップ5のロックかと聞かれたら、ノーと答えなくてはならない」「では世界でトップ3のリーダーか。イエス」

 ブレイブルーパスの穏やかに映る指導者はそんな選手であった。結局、2000年のテストマッチで黒衣のキャプテンの重責を担った。7勝3敗、他国なら上々、かの王国では微妙な戦績を残し、これを最後に国際舞台には呼ばれなかった。

 理想のリーダー像とは。イメージしやすいのは大学のキャプテンだろう。ストイックに身を律し、多数の部員を引っ張る。リーグワンは少し異なる。各国の代表経験者を含み、30歳をとうに過ぎたベテランもいる。パートごとに指導的立場のメンバーを配しながら、多国籍の指導陣との意思疎通のパイプを幾筋も確保、緩むときはうまく緩んで、社会生活にストレスを与えぬ結束に心を砕く。

 陣容によっても変わる。それこそオールブラックスのようにラグビーの上手な人間がひしめくチームなら、強くなくとも大きくなくとも速くなくとも、根っからの統率者の存在こそが成功の最後のピースとなるかもしれない。

 ここまでキーボードを叩いたところで、いま、日本代表の対イングランド(6月22日)のキャプテンが発表された。リーチマイケル。札幌の地が育んだ(と書きたい)国際級のFW第3列である。

 クルセイダーズの伝説の主将であったトッド・ブラックアダーが信頼を寄せるブレイブルーパス丸の名船長。選手としての能力か卓越したキャプテンシーか。悩まずにすんだ。 

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