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【連載】プロクラブのすすめ⑰ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] 自分たちで夢を描く。

2024.06.15

(撮影:中嶋聖)

 日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛け、ひいてはリーグワンについて、山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。
 17回目となる今回は、3季目を終えた静岡ブルーレヴズの運営や成績について総括してもらった。(取材日5月29日)

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――まずは成績から振り返ってください。3年連続の8位に終わりました。

(上位4チームが進む)プレーオフ出場を目指していたので、満足できる結果ではないです。ただ、言い訳のように聞こえてしまうと思いますが、中身を紐解けば非常に良い試合、上位のチームと競った試合を数多くできました。アタックの部分での改善も見られた。勝ち切れなかったことは大きな課題ですが、けが人が少し多く出てしまった点を改善できれば、来季は戦えると実感しています。

 来季はビッグネームの獲得は予定していません。ですが、西内さん(勇人/選手リクルート担当)は本当に面白い選手を見つけてくれます。まだ名前は出せませんが、ニュージーランドや南アフリカ出身の若手の有望選手が加入予定です。長身選手も加入しますので、今季苦戦したラインアウトも改善できるでしょう。

 サム・グリーン選手やシルビアン・マフーザ選手、アーリーエントリーのヴェティ・トゥポウ選手、ショーン、ヴェーテー選手も来季からカテゴリAになります。今季は藤井(雄一郎監督)さんが昨年10月の合流で突貫工事でのチーム作りでしたから、来季はしっかり1年間かけておこなえることも踏まえれば、飛躍できる要素はまだまだあります。

 来季はリーグのプレーオフ出場枠が上位6チームに増えることも検討されているので、もちろん5位、6位での通過ではなくひとつでも順位を上げて2年後に優勝できるチームを作っていきたいと思います。

――今季はカテゴリA選手の移籍が例年になく活発になりそうです。

 ヤマハ発動機から続くブルーレヴズのカルチャーは「育成」です。そこは大事にしていきたいと思っています。
 もちろん、移籍で選手をとらないと決めているわけではありませんが、獲得するにしても、その選手がブルーレヴズのカルチャーにフィットするのか、その選手が来ることで選手の育成に影響がないかなどは考えていかないといけない。タイミングと縁もありますが、投資すべき選手についてはしっかり検討し、ただ高額なサラリーで獲得することに安易に走ることは避けたいと考えています。

――資金力の問題ではないと。

 資金力は大事ですが、ブルーレヴズには「予算を付けるから良い選手を獲ってほしい」というオーナーがいるわけではありません。ヤマハ発動機からの一定の支援と他の企業からのスポンサー収入、チケットやグッズの売り上げから、選手の獲得費用を捻出しています。

 当然、選手に投資する費用は増やしていきたいと思っています。ビッグネームの選手が移籍市場に出た時に、オファーできない状況はもったいない。そのためには予算の余力を確保したり、毎年累積で利益を上げて投資できる計画を立てなければいけません。われわれは企業チームとは異なり、毎年確約されている予算があるわけではない。黒字化すれば次の年に余力ができるし、次の年が赤字になったとしても累積した利益があれば多少の赤字でも耐えられます。

 われわれとしては、2シーズン先の戦力補強のための投資ができるような経営の計画を立てなければいけないと思っています。

――いま選手の人件費はどのように負担している。

 立ち上げの初年度から、社員選手はラグビー以外の仕事もしっかりやっていますので報酬の半額をヤマハ発動機に負担していただき、半額を静岡ブルーレヴズ株式会社が負担しています。業務委託契約(プロ契約)選手の報酬はブルーレヴズが100%負担しています。

――今年度の決算は。

 会社の決算月が12月なので正確にシーズンの収支を表しているとは言えませんが、2期目までは黒字で、3期目(2023年12月期)では赤字となりました。ですが累積利益があるので、耐えられる範疇です。

 今季は社員やチームスタッフの人件費に例年以上の投資をしてきたシーズンでしたので、もちろん黒字を目指していたわけですが、赤字になることも想定した計画ではありました。

 ただ赤字が続くことは健全ではないので、来季はもう一度黒字に転換することで、将来、投資のフェーズが来たときに、しっかり投資できるような財務基盤を作っていきたいと思っています。

――一方で、チケットやグッズの売り上げなど成長できた領域も多い。

 順調に伸びてきていると感じています。チケット売り上げは28%増で、有料比率も65%まで上がりました(前年は60%程度)。

 これまで招待チケットなどを通して顧客データを集めてきたことが、功を奏しています。過去2シーズンで来ていただいた方に、「もう1回見に来てください」「この試合に来ると割引クーポンが使えます」など粘り強くアプローチしてきました。1回目は無料招待だったけど、今度はチケットを買って見に行こうという方が2割程度もいました。これは手応えを感じる数字です。

 アプローチできるデータ数(無料も含めたファンクラブ会員数)も、今季で3万人まで増えました。

――ホストゲームの平均観客数は7683人でした。

 平均8000人が目標だったので満足はしていません。すでに1万人を越えているチームもあるし、(Jリーグの)ジュビロ磐田も1万人を越えています。再来年までには平均1万人の大台に乗せたいです。

――売り上げで特筆すべきはグッズ。80%増の6300万円でした。

 明らかな成長領域ですし、大きな手応えを感じています。まもなく1億円は到達できると思います。チケットの売上は試合への期待度の表れですが、グッズの売上はファンの熱量を表していると思っています。ファンの方がより応援したいと思えば思うほど、グッズの売り上げは上がる。その熱の高まりを感じています。

 今季はさまざまなメーカーとコラボするなと商品企画を充実させただけでなく、売り場の動線を改善したり、1か所で販売していたのを2か所に増したり、ビジターゲームでも出店したりと、グッズ担当の社員たちが新たな手を打ち続けてくれました。ネット通販でもかなりの伸びを見せています。

――それでも赤字だったのは、思ったよりも利益が上がらなかったということでしょうか。

 スポンサー売上の伸び悩みも影響しましたが、それ以外の事業においても利益を高めていけなければいけないと感じています。その方法は、売り上げを上げるか、コストを減らすかの二つしかありません。
 コストに関しては3シーズンを振り返って、もう一度改善できるところがないか、まさに今、議論しています。

 ただ、今季は五郎丸くん(CRO/今季限りで退任)が知恵を出して、大きなコストをかけずとも、良い演出ができる工夫をしてくれました。
 自衛隊の方の協力を得て飛行機を飛ばすこともできましたし、ワイルドナイツとのOB戦も開催できました。もちろん出場していただいた方々に交通費はお支払いしましたが、お金をかけてゲストを呼ばなくてもお客さんに満足していただける企画を提供できました。

――そのほか、課題感を感じている領域は。

 スポンサー収入は伸びが鈍化しています。営業担当の社員を増やして臨んだシーズンだったのですが、県内企業へのアプローチの仕方を変えたり、商品のラインナップを広げることをやっていかないといけないと感じています。

 もう一つは広報戦略です。SNSはかなり頑張って情報発信をしてきたのですが、もっともっとメディアの皆さんに記事の売り込みをしていきたいと思っています。

 この4月から、北海道日本ハムファイターズで広報業務に従事していた笹村(寛之)さんが来てくれました。彼はファイターズが北海道に移転してまもない時からエスコンフィールドができるまでのチームの成長に貢献してきた。昨年は社会貢献活動の優れたロールモデルを表彰する「HEROs AWARD」にも、彼の手がけた社会貢献活動が表彰されました。

 まさか来てくれるとは思っていなかった人材ですが、ブルーレヴズのブランディングを再構築してほしいと思っています。選手一人ひとりやラグビーという競技にスポットが当たるようなやり方をプランニングしてもらっている最中です。
 情報発信の量だけでなく、クオリティもブラッシュアップされていくと感じています。

――スポンサー収入で苦労している要因は。バスケチームを経営してきた時との違いは。

 Bリーグの時は、リーグが年々発展していくのが目に見えていたし、バスケ人気も高まっていた。そうした環境要因も、スポンサー獲得には追い風だったと思います。

 ラグビーが好きな方や昔からのファンであればラグビーに触れる機会も多いと思いますが、あまり関心のない方にはラグビーの盛り上がりを肌で感じられていません。
 リーグワン決勝の日のニュース番組を見ていたのですが、19時のNHKのニュースでは大相撲とBリーグのみでラグビーは取り上げられていませんでした。夜のスポーツ番組も決勝の結果は少しの時間だけでしたし、他局ではそれなりの時間は確保されていましたが堀江(翔太)さんにフォーカスがあたっていて、優勝した東芝さんの取り組みなどはあまり語られませんでした。

 リーグワンのプレゼンスがもっと高まれば、ラグビーのチームをスポンサーするということに対して、ステータスを感じてくれたり、理解が高まると思っています。
 Jリーグのクラブのスポンサーをするとなれば、「そんなにすごいことできるのか」というイメージがありますよね。

 頑張っているから応援する、ラグビーが好き、スポーツによる地域貢献が大事と感じてスポンサーしてくれる方々がラグビーではほとんどで、ラグビーをスポンサーすることで大きな宣伝効果があったり、企業イメージの向上に繋がるという域まで達していない。試合数が少ないよね、と言われてしまうことも多々あります。

 18試合という歪なフォーマットを是正して試合数を増やしたり、ホストゲームは全試合ホストスタジアムで開催するようにルール化したり、完全プロ化、Bプレミアのような新たなリーグ創設などワクワク感や期待感が醸成されるような変化を起こしていかないと、クラブに投資しようとか、スポンサーが拠出するお金を増やそうという流れが作れないと感じています。結局、未来に対する期待がなければ先行してスポンサーしよう、出資しようとはなりませんから。
 またしても前回のテーマに戻ってしまいますが。

 当然、自分たちの努力でそうした期待感を作っていかなければいけないとも思っています。リーグワンの行く末がなかなか見えてこないとなれば、自分たちで夢物語を作っていくしかありません。

 新しい練習拠点や新しいスタジアム、新しい演出、海外クラブとのマッチメイク…。例えばスーパーラグビー加入を目指すなど突拍子もないことも含めて、スポンサーの期待感を高めていくことをやり続けるしかないと思っています。

 新しい練習拠点の話をすれば、今、土地探しをしている真っ只中です。ただドンピシャの土地がなかなか見つからないのですが。田舎は土地がありそうで、ないんです。土地があったとしても、その土地の用途区分が農地だと商業地に変えるのは相当難しい。5、6年、下手したら10年くらいかかります。農地を簡単に別のものに変えられてしまうと、国内の農地がどんどんなくなってしまうので、日本の規制はかなり厳しいんです。
 なので商業地と区分されている土地で空いている場所がないかを探したり、少し苦労はしています。

 ただ、期待感を高める一番の方法はチームが強くなること。来季こそは結果を出します。



PROFILE
やまや・たかし
1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任

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