「昨年は4校、今年は12校の選手が集まってくれました」(石神井高校・石川善司先生)
多摩川沿いのきれいな芝で、東京都立高校、国立(こくりつ)の高校でプレーする高校生たちの笑顔がはじけた。6月9日、リコー世田谷グラウンドで、東京都立高校選抜チームの練習会がおこなわれた。
都立高校選抜は昨年初めて結成された非公式の合同チーム。昨年はプレ開催として4校が集まったキャンペーンを経て、今年はすべての都立高校に声かけがあり、希望する3年生ら選手45人が集まった。この日は42人が出席。中には2年生ながら「練習だけでも」と参加するケースもあり、会場のリコーグラウンドが高校生たちの意欲的な空気で満たされた。
謳い始めは「都立」の「選抜」だったが、2回目の開催で希望の届いた東工大附科技高の選手たちもジョイン。この日を含め2度の練習後に控える試合では、練習参加者全員がAとBに分かれて、試合に出場できることが選手に伝えられた。
発起人は都立石神井の石川先生と、トレーナーの有賀洋志さん。
二極化する高校ラグビーの現場で奮闘してきたラグビー顧問である石川先生が、コロナ以降、部員不足が著しい都立高校の窮状をなんとか変えていきたいと声を上げた。共鳴した有賀さんが推進役となって、2023年にプレ開催に漕ぎ着けた。対戦相手は、同じ公立高校のよしみ、と、埼玉の強豪である深谷高校が務めることに。ラグビー界では知る人ぞ知る名店、大森の「五郎のとんかつ」(竹内巌氏)が合同チーム用のジャージーを協賛、関東協会のトップレフリーだった土屋有司さんのサポートも得て、2年目を迎えている。
「登録上は30以上ある東京都立高のラグビー部で、今年の春、10人以上の1年生を獲得したチームがいくつあると思いますか」
自ら石神井高校で監督を務める石川先生はじめ、関係者の危機感は極まっている。
答えは、3校だ(北園、小山台、石神井)。
「現場はそれぞれの関係者が力を尽くしています。それでも毎年、僕らの仲間である顧問の先生方がそれぞれに苦悩、苦悶している。その姿を見続けてきて、放ってはおけないと思いました。一人で苦しまず、横のつながりで乗り越えていきたい」
選抜チームの結成は、そのきっかけづくりがおもな狙いだ。強化よりも「繋がり」を重視している。
少人数で練習を重ねているチームが多いとあって、大人数での練習には高校生の笑顔が絶えなかった。つながりを誰よりも感じているのは彼らだろう。ボールゲーム、ラントレーニング、パス、タックル、FWとBKに分かれてのスキルと、メニューはテンポよく展開された。この日、初めて集まった3年生たちは互いにほぼ初対面だったが、プレーの合間の声かけやトークには、早くもチーム感が漂っていた。
石神井高校3年、長田諒大さん(りょうた・王子桜中ラグビー部出身)は、巨漢相手にもコンタクトに真っ直ぐ踏み込む強気なSH。同期の3年生は4人のみだ。2年時からは部員勧誘に体を張り、現在、2年生は18人、1年生は14人が在籍しているという。
「中学までの経験がない人でも大丈夫だよと誘っても、ラグビーは怖い、と言われてしまう。それでも、部の雰囲気は大事です」(長田さん)。何をやるか、と同じくらいに、どんな仲間と、どんなチームになりたいのかが大切、と実感している。
会場、指導で全面サポートを担うリコーブラックラムズからは、4人の有志が指導にあたった。岡崎匡秀氏(アシスタントコーチ)、小浜和己氏(採用、アカデミーコーチ)、藤野健太氏(S&Cコーチ)、陣内寿知氏(AT)。普段はトップチームやアカデミーを指導するスタッフは、選手たちの意欲的な姿勢に応え、2時間のセッションに臨む表情も真剣そのものだった。
「楽しい! という声や、彼らの表情が最高でした」と小浜コーチ。
「今日のセッションは、みんなのモチベーションの高さに助けられました。リコーとしては、ラグビーを通じて世田谷、東京の地域の役に立ちたいという一心で取り組んでいる。コーチングは7月21日の試合当日まで続けていくつもりです」(小浜コーチ)
集まった選手たちの体や顔つきには、部員数に関係なく、彼らの過ごしてきた日々の積み重ねが伺えた。たとえメンバーが15人に満たない部でも、それぞれに大切なラグビーの日常がある。
今年、関東大学対抗戦春季大会の会場には、都立選抜OBの姿、長谷川永和(とわ)選手の姿があった。6月2日、Bチーム同士の試合にNO8として出場。狛江高校を卒業し、一般受験で理工学部に入学、体育会ラグビー部で活躍している。関係者にとって、そして何より、現役の小さなチームの高校生にとって、うれしいニュースだった。今は細くくねった径も、大きな未来につながっている。