パリ・パラリンピック前最後の車いすラグビー国際大会となる「Wheelchair Rugby CANADA CUP 2024」(以下、カナダカップ)は大会2日目の6月7日、予選ラウンド5試合がおこなわれた。
世界ランキング3位の日本はアメリカ(同1位)、オーストラリア(同2位)との2試合に臨んだ。
日本とアメリカは、4月にイギリスで開催された「クアードネーションズ」に続いての対戦。序盤からターンオーバーを取っては取られ、一進一退の攻防が繰り広げられた。
次々とラインアップが入れ替わる日本のベンチワークを見越して、アメリカは先手先手で選手交代を重ねた。ただ日本は、そのテンポに引っ張られることなく、スペースに1人、2人と走りながら選択肢の多い連係プレーを発揮し、自分たちのラグビーに集中した。
息をのむ展開のなか、日本は粘り強くチャンスの時を待った。第2ピリオド中盤、アメリカがコート内の選手が要求できるタイムアウト(1試合4回まで)を使い果たすと、徐々にギアを上げた。
相手のパスにアグレッシブに絡んでターンオーバーを奪い、前半残り1.2秒で22-20。そのまま前半終了かと思われた。
しかし、アメリカの長いインバウンド(スローイン)を相手フロントコートでキャッチした橋本勝也がすかさずタイムアウトをコールする。そこから長い“0.8秒”が始まった。
残り時間0.8秒でさらに1点をもぎ取ろうとラインアップを入れ替えた日本は、ロングパスを武器とする池 透暢がインバウンダーを務めるも、ボールがコートの外に落ちアメリカに攻撃権が移った。
意地を見せるアメリカもラインアップを変えて対抗。しかし、それもアウトオブバウンズとなり再び日本ボール。さらなるチャレンジをするのか、観客は好奇心を掻き立てられた。
結果、ここは着実にボールキープを選択し、日本の2点リードで試合を折り返した。
エキサイティングな余韻を残して始まった後半も頭脳ゲームのような展開が続いた。
チーム最年長の島川慎一が目の覚めるようなランでトライを次々と挙げる。そして倉橋香衣は、自分より障がいの軽い相手プレーヤーをコーナーでがっちりと止め、ミスマッチを作る。
アメリカが得意とするクロスの攻撃を封じた日本はリードを広げ、50-43で勝利を収めた。
スタメン出場して攻守に絡むプレーで勝利に貢献した小川仁士は、「戦術がはまりミーティング通りのオフェンスとディフェンスができた。アメリカに対してどこか苦手意識があったが、コンスタントに勝てるようになり、それは払拭されたと感じている」と手応えを口にした。
その4時間後におこなわれたオーストラリアとの一戦は、ランのスキルを競うかのような走り合いの展開となった。
序盤で立て続けにターンオーバーを奪った日本は主導権を握り、池崎大輔と中町俊耶を中心に得点を重ねる。
一方のオーストラリアもライリー・バットとクリス・ボンドの両輪をフル稼働させスコアしていく。
オーストラリアは同じアジア・オセアニア地域に所属するライバルとして、パラリンピックや世界選手権の地域予選をはじめ対戦することも多い。
言わば手の内を知り尽くした相手で、他の海外チームとは違う独特な試合の空気感がある。
壮絶な走り合いは、これまでの対戦でも幾度となく見られたが、さすが世界トップランカー同士とあって、鍛え抜いた走力はどちらも本物だ。疲れを知らない運動量で、左へ右へ絶え間なくコートを駆け回る。
そのスピード感に目が慣れると、一瞬、動きがゆったりと見え、ラグ車(ラグビー競技用の車いすの通称)が描く曲線に美しさを感じた。
第2ピリオド終盤、「世界一のプレーヤー」と称されるバットを、乗松聖矢がガッチリと押さえ込みチームの士気を高める。
そうして、またたく間に試合が進み、26-23で前半を終了した。
後半に入っても、強度の落ちない戦いが続いた。
早いテンポの中で、素早い判断が求められる。迷いのない選択で4人の連係を維持できるのは、全員の頭に統一したゲームプランがあるからだろう。
「『一貫性を持ってプレーしよう』と、みんなが共通認識を持って取り組んだことでチーム力も上がったと感じている」
倉橋の言葉が説得力を持ってすっと入ってくる。
ベンチメンバーとともに12人で戦う日本は、ピリオドごとに点差を広げ、55-47で勝利。開幕から3連勝をあげ、大会後半に向け弾みをつけた。
カナダカップ3日目の6月8日には予選ラウンドの各試合がおこなわれる。
日本は地元・カナダと対戦したのち、フランスとの最終戦に臨む。