筋肉のぶつかる鈍い音を鳴らす。走者をなぎ倒す。
東京サントリーサンゴリアスの山本凱が今年、日本代表に初選出された。6月6日からの宮崎合宿に参加し、当面は21日の東京・国立競技場でのイングランド代表戦を見据える。
チームはその後もメンバーの一部を入れ替えて「JAPAN XV」として活動。山本は新たな環境に触れるのを心待ちにする。
「サントリーで3シーズンいました。別な環境でラグビーをするのは久しぶり。成長したいです。(試合に出たら)持ち味を出す。タックル、思い切りよくインパクトを残すプレー…。しっかりやりたいです」
身長177センチ、体重100キロの24歳。ポジションはオープンサイドFLで、本人が話す通りタックルが長所だ。
国内リーグワン1部では、前年度まで2季連続で「ゴールデンショルダー」を得た。激しいタックルをした人が選手投票でもらえる賞だ。最初にそのタイトルを獲った一昨季は、慶大を経て途中参加のシーズンだった。
今季のリーグワンでは、得意技を披露しながら反省もした。
5月19日、東京・秩父宮ラグビー場。東芝ブレイブルーパス東京とのプレーオフ準決勝の後半2分のことだ。
ハーフ線付近左で、相手ボールラインアウトからの攻めに対峙。自身の立ち位置へ、相手のSOのリッチー・モウンガが仕掛けてきた。向かってその右にはFLの佐々木剛が、さらに奥側からはWTBのジョネ・ナイカブラが駆け込む。
山本が巧みなモウンガ、手前にいた佐々木に気を取られるなか、モウンガはナイカブラへパス。ナイカブラは快走し、サポート役に回った佐々木にフィニッシュさせた。サンゴリアスは20―28で敗れた。
モウンガはニュージーランド代表としてワールドカップに2度出場。初参戦した今回のリーグワンでは、シーズンMVPに輝いている。
山本はモウンガの「前につっかけてくる」うまさに舌を巻きつつ、以後はこれと似た動きにも対応できるようになりたいと頷く。
「高いレベルで自分を試せるのは楽しいこと。(テレビなどで)ずっと見ていたそういう人(世界レベルの選手)とどんどん対戦して、目とか、身体を慣らしてきたい」
悔やむ言葉にも、国際舞台に挑む自覚をにじませた。
日本代表で約9年ぶりに登板のエディー・ジョーンズヘッドコーチは、地上戦の名手を重用してきた。
2001年から5年ほど率いたオーストラリア代表では、公表で身長180センチのジョージ・スミスをFLに据えた。スミスは地面で相手の持つ球によく絡み、その動きはこの人の愛称である「ジャッカル」と称されるようになった。他の人が繰り出した場合も「ジャッカル」だ。
ジョーンズは2016年から監督を任されたイングランド代表でも、トム・カリー、サム・アンダーヒルというハードタックラーを好んだ。2019年のワールドカップ日本大会ではこの2人をFW第3列に並べ、決勝に進んだ。
このジョーンズに山本は、世界選抜と戦ったバーバリアンズへ呼ばれていた。昨年5月のことだった。今度の代表活動では、指揮官の好む仕事をどこまでできるか。
イングランド代表の大型FWをひっくり返せたら「最高に楽しいと思います」と、本人は展望する。