いまのところ、今季のリーグワン1部におけるベストゲームと言えるのではないか。
5月18日、東京・秩父宮ラグビー場でのプレーオフ準決勝である。
一昨季まで国内2連覇で今季レギュラーシーズン1位の埼玉パナソニックワイルドナイツに、同4位で直近の対戦でいずれも大敗していた横浜キヤノンイーグルスが迫った。
17―20。あと一歩に迫ったイーグルスにあって、嶋田直人が喜ぶ。
「多くの方から感動した、涙を流しながら見ていましたという声をいただいて…。僕らのパフォーマンスで、見ている方がそのような感情になってくれるのは嬉しいです。本当に、ラグビー選手をやっていてよかったと思いますよね」
向こうの誇る堅守に対し、就任4年目の沢木敬介監督は「相手が判断ミス、ノミネートミスが起こりやすくなるタイミングがある」。いくつかの条件を揃えられれば、大外に風穴を開けられると見ていた。後半13分の一時勝ち越しとなるトライシーンをはじめ、複数の場面で研究の成果を活かした。
ワイルドナイツに逆転され、さらにだめを押されそうになった後半32分頃には、自陣ゴール前での守勢局面を耐えた。13フェーズ目。対する南アフリカ代表CTBのダミアン・デアレンデの落球を誘った。
嶋田が続ける。
「プラン通り、勇気を持ってスペースにアタックしていた。ディフェンスでも果敢にタックルに行って、ブレイクダウンでファイトしていた。自分たちのスタイルを出せていたと思います。本当に、かっこよかったですね。チームメイトを誇りに思います」
身長181センチ、体重99キロ。長らくリーダー格のFLとして奮闘してきた32歳はこの日、最後までタッチラインの外で戦況を見つめた。
ファーストジャージィの20番を背負いながら、プレーできなかった。
攻撃力が買われてFLで先発したシオネ・ハラシリは、後半11分に退いた。そこで代わってピッチに入ったのは、ハラシリとタイプが似たシオエリ・ヴァカラヒだった。「ジョー」ことヴァカラヒは、もともとFLでスターター予定だったコーバス・ファンダイクの故障でベンチに繰り上がっていた。
リザーブから急遽、スタメンのFLに昇格したミッチェル・ブラウンも好調だった。白熱する展開にあって、嶋田が投じられるタイミングはなかなか訪れなかった。
沢木監督が「(交代は)難しかった。皆、よかったから。代わったジョーも」と説くなか、嶋田はこう語る。
「あの場に立てなかったことは残念です。僕も、いいパフォーマンスをしている皆の中に入りたかった。ラグビーをやっていたら、皆、あそこで戦いたいと思うはずです。ただ、こればっかりは仕方がない部分もある。直前のメンバー変更があり、出ていた選手が本当に素晴らしいパフォーマンスをしていて、なかなか代えづらかったとも思うので。(沢木監督は)僕に信頼がないから出せなかったわけじゃなく、タイミングが難しかったと言ってくれました。チームが、一番。(悔しさは)次にぶつけるだけです」
対するワイルドナイツには、京都・伏見工高(現京都工学院高)時代の同級生でSHの内田啓介がいた。今季限りで引退する内田とトップレベルの公式戦ができるのは、この日が最後だった。
嶋田は微笑み、しみじみと言う。
「彼も40秒くらいしか出ていない! まぁ、そんなもんかなと思います。人生。うまくいかないことばっかりなので」
内田がスパイクを脱ぐのは、教職員として指導者の道に進むからだ。嶋田も近い将来、それと似た選択をするつもりである。
もっとも来季はイーグルスにいるつもりで、何より、25日に再び秩父宮へ出向く。
今季最終戦は、前年度も制した3位決定戦だ。嶋田は19番をつけ、昨季4位の東京サントリーサンゴリアスとぶつかる。
「自分の役割をやるだけ。いつも以上に活躍しようというのではなく、いつも通りに。何回も立ち上がってタックルをして、ブレイクダウンに入りに行って…。その回数と質を求めてやるのが一番です」
今度の80分を、「自分たちの価値をもう一回、見せられる最後の舞台」と位置付ける。
「勝って終われるのと負けて終わるのでは全然、違う。難しい状況でも、やってきたことを(試合で)出す。それは、これからイーグルスが強くなるのに必要なことです」
話をしたのは23日。町田市内の本拠地で今シーズン最後の本格的な全体トレーニング、さらにはタックルの個人練習を済ませた直後のことだった。