追い込んでいた。
東芝ブレイブルーパス東京の眞野泰地は、5月19日のリーグワン1部プレーオフ準決勝へ出られないことが内々にわかると気持ちを切り替えた。
「悔しい部分もある。だからといって、やるべきことをやらないことは違う」
全体練習以外の時間では、あえてきついトレーニングを自らに課した。翌週の決勝進出と、その際のレギュラー昇格を信じた。
「チャンスが来た時には、自分のパフォーマンスができるように」
本番当日、アクシデントがあった。
眞野がプレーするCTBでスターターだったセタ・タマニバルが、ウォーミングアップ中の怪我で抜けた。ベンチのマイケル・コリンズが13番に繰り上がり、空いた23番の枠へ入ったのが眞野だった。25番のジャージィを着た。
メンバー外の面々はその日の朝、走り込みの伴うハードセッションに取り組んでいた。
眞野は、「身体はすごくタイトな状況でした」としながら「ただ…」と続ける。
東海大仰星高の主将として冬の全国大会で頂点に立ち、東海大ではそれまでのFLからSO兼CTBに転じて運動量、判断力、主将としてのリーダーシップを発揮。2020年に入ったブレイブルーパスでも今季レギュラーシーズン16試合中11回出場という26歳は、今度の勝負の価値を肝に銘じていた。
「…誰が抜けても、絶対に勝ち切らなきゃいけなかった。セタが抜けたからといって、それで負けたくはない」
対峙したのは東京サントリーサンゴリアス。ブレイブルーパスが2連勝したレギュラーシーズンの直接対決時と異なり、高い弾道のキックを多用してきた。
立ち合いに変化をつけられた格好のブレイブルーパスは、序盤、主導権を握られた。前半24分までに0―10とされた。
眞野が出動を命じられたのは、そのタイミングでのことだ。
同じCTBのニコラス・マクカランの故障に伴い、身長172センチ、体重88キロという小さなタフガイが東京・秩父宮ラグビー場のピッチへ入った。
落ちついていた。
「(サンゴリアスが)何かしら新しいことはやってくることはわかっていて、最初の10分くらいは相手の流れになるのも仕方がない。自分たちのやるべきことを変えなければ、自分たちのペースになるとわかっていました。(交代のタイミングは)いつでもレディー(準備万端)だった。しかも最初の10分くらい流れが悪かったので、それを変えようとイメージしていました」
ファインプレーを重ねた。
14―13と1点リードの後半15分だ。敵陣10メートル線付近右で、こぼれ球へ飛び込んだ。ターンオーバー。味方が攻め始めた。
その流れでパスをもらったのが、眞野だった。最初にセービングをしたのよりもやや中央寄りの地点から、小刻みにステップを踏んだ。5本のタックルをかわした。約20メートル、駆け上がった。
サポートについたFBの松永拓朗へつなぎ、最後はFLのシャノン・フリゼルのトライを見届けた。直後のゴール成功もあり、21―13とした。
スコアをもたらすランについて問われ、冗談交じりに言った。
「午前中のメンバー外トレーニングが活きたのかなと! それをやってからも(試合で)いけるぞというのは、ちょっと、チームに悪い影響があるかもしれないです!」
28—13とさらに点差をつけていた後半28分以降は、何度も自陣22メートルエリアで守勢に回った。
そこで示したのが、「チーム力」だった。
横一列に壁を敷き、走者の足元に刺さった。
「きょうわかったことは、(ブレイブルーパスの)チーム力。セタに頼るとか、ニックに頼るとか、そんなんじゃなくて。特にディフェンス。チーム力は、ディフェンスに現れる」
防御を担当するタイ・リーバ新アシスタントコーチは、「いいラインスピード(出足)、ブレイクダウンへのプレッシャー」を重んじる。複数のポジションからリーダーを選び、戦い方の浸透を図ってきた。
「相手のアタックから時間とスペースを奪う」
そのリーダーのひとりに、眞野がいた。
「毎週ミーティングし、選手側の意見も伝えています。ただ言われているだけではなく、全員で作り上げている感が強いです。(この午後も)声をかけながら、崩れないように…と、すごくいいディフェンスができた」
ノーサイド。28—20。12チーム中2位で2シーズンぶりに4強決戦へ突入していた狼たちは、キックオフ直前の登録選手変更という緊急事態にも屈しなかった。旧トップリーグ時代の‘15年度以来となる、ファイナル進出を決めた。
26日に東京・国立競技場でぶつかるのは、埼玉パナソニックワイルドナイツ。一昨季まで国内2連覇、今年度はここまで全勝という艦隊だ。
「チーム力で戦います」と、殊勲の伏兵は言う。
「自分たちのラグビーをする。あっちは崩れないチームなので、それに対して自分たちが崩れてしまうと自滅するし。ただ自分たちのラグビーをやり切れれば(勝つ)自信がある」
ブレイブルーパスは‘09年度に5度目のトップリーグ制覇を果たして以来、日本一から遠ざかっている。眞野が念願を叶えて見たいのは、NO8のリーチ マイケル主将が喜ぶ姿だ。
自身と同じ東海大から’11年度に入部もいまだチームタイトルと無縁という日本代表の顔役について、このように触れる。
「あの人が優勝しているところを見たいと、皆が思っています。だからこそチーム力も上がっている。優勝したら、どんな顔をするのか…。泣くのかな?」
高揚感が抑えられない。