チェスリン・コルビが帰ってきた。加入1年目となる東京サントリーサンゴリアスにあって、約6週間ぶりに公式戦のフィールドに戻る。
5月19日、東京・秩父宮ラグビー場での国内リーグワンのプレーオフ準決勝にWTBで先発する。
身長172センチ、体重80キロの30歳。速さ、ばねを長所に南アフリカ代表で活躍してきた。このほど怪我を乗り越え、レギュラーシーズンで2連敗中の東芝ブレイブルーパス東京へ挑む。
両軍は、いずれも東京都府中市で活動する。
ブレイブルーパスのトッド・ブラックアダーヘッドコーチは、危険な刺客のカムバックについてこんなエピソードを紹介する。
「今回は当然、メンバーに入ると思って準備してきました。先日、近所のカフェで彼とばったり会ったら、怪我は順調に治っていると話していましたから」
かたやサンゴリアスの田中澄憲監督は、練習に戻った切り札の様子を前向きに伝える。
「リアクションのスピード、ボールを持った時のスピードが違う。それを活かし、脅威になって欲しいです」
ブレイブルーパスが司令塔のSOにニュージーランド代表経験者のリッチー・モウンガを起用するのを受け、こうも続けた。
「モウンガ選手は色々なことをやってくる。それに対しての危機管理、予測して動くことを(コルビには求める)。もちろんそれはチームとしてやらなくてはいけないことですが、彼のそういった働き(ボールを持たない時の仕事量)は世界トップクラス。チームを救ったり、エネルギーを与えたりしてくれることを期待したいです」
当の本人は「順調です」。メンバー発表の2日前にあたる15日、都内で状態のよさをアピールした。
「もし試合に出る機会が与えられたら、存分に楽しみたいです」
初来日して迎えた昨年12月からのレギュラーシーズンにあっては、故障の影響で16試合中9度の出場に止まった。ただし、インパクトは抜群だ。
秩父宮のスタンドをひと際、沸かせたのは3月23日。横浜キヤノンイーグルスとの第11節でのことだ。
ハーフタイム直前に自陣ゴール前左で向こうの持つ球を奪い、約60メートルを力走。味方のトライを演出した。思考は簡潔だった。
「プレッシャーがかかっていたシーンでした。できるだけボールを持つ選手の前のスペースを潰そう、タックルに行こう、ボールを取り返そう、速く走ろうと考えていました」
コンディションを鑑みてまもなく交代すると、35―37と逆転負け。それでも件のシーンに、SHの齋藤直人は「一瞬、何が起こったのか…」。HOの堀越康介主将も脱帽した。
「無茶苦茶きつかったのでよく覚えていないですが…。頼もしかったです」
振り返ればコルビは、2連覇した昨秋のワールドカップフランス大会でもファインプレーを披露していた。
開催国のフランス代表との準々決勝で、敵のゴールキックをチャージ。29―28と1点差で制したことで、その一手はより際立った。
いったいなぜ、かくも想像を絶するようなプレーでスコアに影響を及ぼせるのか。そう問われたコルビは、返答に代えて次戦への思いを明かした。
「(サンゴリアスの)皆には、フィールドで悔いを残さないようにしようと話しました。相手をよく分析し——これはゴールキッカーも然りです——どんな形でもチームに貢献していく。その、意志が必要です。そうすることで、プラスのインパクトを与えられれば嬉しいです」
これから始まる国内のノックアウトステージへは、「基礎をおざなりにしないことです。ゲームプランを理解したうえで実行する」。一挙手一投足に、ワールドクラスの矜持をにじませる。