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プレーオフ準決勝で先発。イーグルス荒井康植、ファフ・デクラークから何を得た?

2024.05.16

持ち味はアタック。準決勝でチームを勢いづける存在になれるか(撮影:松本かおり)



 同じポジションに世界的名手がやってくる。それを知った時の思いを、横浜キヤノンイーグルスの荒井康植は素直に振り返る。

「『何でー!?』って思いましたね、最初は」

 身長175センチ、体重80キロの31歳。アタックセンスが長所のSHとして、’21年の春には日本代表となった。鞘ヶ谷ラグビースクール、佐賀工高、帝京大を経て2016年に入ったイーグルスで、着実にキャリアを積んでいた。

 しかしクラブは、翌’22年12月からのシーズンに向けてファフ・デクラークを獲得。南アフリカ代表のSHとして、’23年にワールドカップ2連覇を果たすファイターだ。金の長髪をなびかせ、攻守に駆け回る。

 自身より2学年上の名手と定位置を争うことになった荒井だが、まもなく、そのメリットも感じた。こう言葉を選んだ。

「実際に(デクラークが)来てみれば、やっぱり、学ぶところは多くて。悔しさもありますけど…。いま振り返ると、彼がいたことで、SHができることはいっぱいあるなと思えました」

 実戦練習で対峙し、かつ本人の出るゲームを見ると、この人の「読み」の鋭さに感銘を受ける。

 味方の防御ライン上で「相手にとっての『そこにいたら嫌だな』というところ」に位置取り、向こうのパスの受け手に鋭く圧をかける。ボールを触らずしてかくもチームを助けられるのかと驚き、「自分もそうならなきゃいけないな」と心を新たにした。

 幸運だったのは、デクラークがチームマンだったことだ。

 全体練習後は、自身を含むSHの選手を集めてスキルセッションを実施した。接点の後ろから高く蹴り上げるハイパントをひとつ取っても、ブロンドの騎士は「向かい風の時、追い風の時、プレッシャーをかける相手がどの位置にいたらどう蹴るか」と細部に気を配っていたとわかった。

 何気ない動きの詳細を突き詰めることが、世界クラスのプロフェッショナリズムなのだと知った。そのイズムを間近で吸収することで、己の幅を広げられた。他のSHの選手も、きっと同じ感想を持っているだろうと思える。

「ひとつひとつのキックにしろ、パスにしろ、仕掛けにしろ、色々、教えてくれていますね」

 ’23年5月まであったデクラークにとってのファーストシーズンは、クラブ史上最高の3位で終わった。好事魔多し。昨年12月からの新シーズンでは、そのデクラークが’24年1月に怪我で戦列を離れた。

 荒井は、イーグルスのSHで最年長となる天野寿紀と誓い合った。「助け合いながらやっていこう」。9番を争うデクラークら4人のことは、ライバルであり同志と捉えているのだろう。

 2月下旬以降、防御の改善点を指摘されて登録メンバーから外された。担当アシスタントコーチのCJ・ファンデルリンデにフィードバックをもらったうえ、堅守の天野、山菅一史からも助言を受けてきた。

 課題の克服と得意の攻撃をアピールしていたら、3月23日、東京・秩父宮ラグビー場で復権のきっかけを掴む。

 3戦連続でのリザーブ入りとなった第11節で、25点ビハインドの後半開始から登場。好配球を重ね、東京サントリーサンゴリアスを37―35と逆転で制した。

 翌週から、レギュラーシーズン終了まで先発に定着できた。心で誓っていた。

「もしプレーオフ行けなかったら、世間は『ファフ・デクラークがいなかったから…』と思う。それだけは凄く嫌で。試合に出て、必ずトップ 4(入り)に貢献していきたい」

 2季連続での4強以上を決めたのは第14節終了後。5月18日のプレーオフ準決勝でも、スターターを任された。

 対するは埼玉パナソニックワイルドナイツ。一昨季まで国内2連覇の強豪だ。一枚岩の防御が光る。前年度のプレーオフセミファイナルでの同カードを、イーグルスは20―51と落としている。

 デクラークは母国での手術を経て、春までに再合流している。万全ではないコンディションながらトレーニングに部分参加し、同じ働き場の仲間への技術指導もおこなう。

 今度の決戦へは、仮想ワイルドナイツのグループに混ざってレギュラー組に圧をかけた。金言を授けた。

 就任4季目の沢木敬介監督はこうだ。

「例えば、『強度の低い練習でもスキル、タックルやブレイクダウンへ入る姿勢にはこだわっていこう』と。まさにそうで、勝つチームだからこそ大事にしていることがわかっている。ワールドカップで優勝している人間だから、勝つために何を整えればいいか、どういうマインドで臨めばいいかを気付いてくれる」

 大物の離脱を組織で補おうとあがいた結果、優勝への権利を手にしたままクライマックスを迎えられた。指揮官はこうだ。

「荒井が出ているのは、アタックの面で僕が評価しているから。いまのメンバーを考えると、攻めて勝つしかないんで。ずっとボールを持っているだけじゃ(ワイルドナイツの守りは)崩せない。崩れるタイミングを見計らってプレーしないといけない。自分たちのアタックの形がうまく機能するようなバランスになれば、崩せるチャンスがあるかな、と思います」

 注目の80分は秩父宮で14時5分、キックオフ。

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