点差をどんどん広げてゆく。
早大ラグビー部主将の佐藤健次は、そのたびに味方に声をかける。
「ワセダ、ここからはオールオプションで行きましょう! 逆(パスが渡らない)側のポッドも用意して!」
「ワセダ、ハドル(円陣)、組みましょう!」
5月12日、茨城・流経大第1グラウンドで関東大学春季大会Aグループの初戦に出場。最前列中央のHOとして先発し、FW最後列のNO8の位置でノーサイドを迎えた。
スクラム、突進で際立ち、モールの仕留め役も担ったこともあり3トライをマーク。何より68―7で勝つまでの間、船頭役を全うした。
下級生時からリーダーシップをとっていた身長177センチ、体重107キロの元桐蔭学園主将は、ずっと言葉を発してきたわけをこう述べた。
「去年、トライを獲った後に少しばらついてしまう雰囲気があった。だからまず、ハドル(円陣)を組む。この簡単なことで意識をひとつにすれば、いい共通認識を持ったままアタック、ディフェンスができる」
興味深いのは、その際に敬語を使っていたことである。本人は笑う。
「…あ、ハドル中は『〇〇しましょう』って。癖ですね。人がいいんですかね」
早大は歴代最多となる通算16度の大学日本一を記録も、昨季は全国8強で終わった。大学選手権の準々決勝で、京産大に28—65で敗れたのだ。かたや同じ関東大学対抗戦A加盟の帝京大は、3年連続12回目となる選手権Vを果たした。
身体作り、基本プレーを抜本的に見直す早大にあって、佐藤はこの日の出来にひとまず「いい規律、いい強度でできていた」と前向きに述べながら、課題があると続けた。
後半31分にLOの栗田文介が独走トライを決めた瞬間について「あそこのシーンで、何人、(サポートに)上ってこられるか(が大事)」。さかのぼって後半18分、相手WTBのアポロサ・デレナラギにパスミスを拾われ失点を喫したのを踏まえ、「そこに、何人、帰ってトライセーブできるか(が肝)」。複数の現象から上位校との差を抽出し、こうまとめた。
「本当に少しの意識の差だと思うんですけど、そこをもっと高めないといけない。今回の結果には満足していないです。ワセダは、普通のディフェンス、普通のアタックをしていたら絶対に優勝できない。激しく、鋭く、速い、ワセダらしいラグビーができたら」
特別な時間を過ごしている。今年2月、日本代表候補の集まる「トレーニングスコッド福岡合宿」に参加。5月には、有望な大学生を代表スタッフが鍛える「ジャパンタレントスコッド」へ名を連ねた。
約9年ぶりに再登板のエディー・ジョーンズヘッドコーチに、将来性を買われている。6月22日のイングランド代表戦など、代表活動への参加も期待される。
日本代表および関連の「JAPAN XV」は7月以降も多くのゲームを組む。
特に6月29日、7月6日の「JAPAN XV対マオリ・オールブラックス」の2連戦、8月25日、9月7日にある「パシフィックネーションズカップ2024プール戦」では、若手の抜擢がありそうだと見られている。
本人も「エディーさんのもとでしっかりチャレンジしたい」「行けるのであれば、イングランド代表戦へはチャレンジしたいです」と話すのだが、それとは別に大きなターゲットがあるという。
『荒ぶる』
早大が大学選手権を制した時のみ熱唱できる第二部歌のことだ。
「今年の僕の目標は『荒ぶる』です。勝つためにワセダに来たので、最後くらい…」
チームを離れる間も、できるだけ仲間と連携を図りたい。9月に対抗戦が始まるまでには、主将業へ専念したほうがよいのではとも考える。
「色々と選択肢はある。考えながらやりたいです」
広い世界に出ることと、いまいる世界で戦いきること。そのバランスについて目下、検討中だ。