W杯で初のプールステージ突破を目指すサクラフィフティーン。イングランド大会までは、あと1年半と迫っている。これから先、どのような航路を辿るのか。太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ北九州大会に視察に訪れていたレスリー・マッケンジーHCに、インターバルの時間を利用してインタビューをおこなった。(取材/明石尚之)
*ラグビーマガジン6月号(4月25日発売)に掲載の「DAEN-Q NET」より再掲
――2月上旬は欧州で過ごしていたと聞きました。
「ワールドラグビーのカンファレンスに参加していました。私が興味を持っていた議題は、クリーンアウトの仕方について。われわれは『クロックロール(ジャッカラーの胴体に両腕を回し、体を回転させて剥がす行為)』による負傷が原因で櫻井(綾乃)を二度も失っています。
シックスネーションズではすでに、そのプレーへの罰則が奨励されていた。これから厳罰化されるのはプレーヤーウェルフェアの観点から、とても良いことだと思います」
――欧州の代表チームへの視察は。
「他国の代表チームはなかなか歓迎してくれません(笑)。プレミアシップでプレーをする日本の選手たち(小林花奈子、山本実、玉井希絵がプレー)にだけ会ってきました」
――昨年から始めた、タイトファイブを招集した合宿が今年もスタートしました。現時点での手ごたえは。
「キャンプ自体にワクワクしているし、すでに素晴らしい成果が見え始めています。3月下旬に1回目の合宿を2週間おこない、いまは1週間ほど家に帰して普通の人間らしい暮らしをしなさいと伝えています(笑)。特に役割の理解、その役割をどのように遂行していくのか、というところに大きな進歩が見えます。
W杯まであと1年半です。最初のミーティングでは、この合宿の重要性を伝えました。われわれは準々決勝に必ず行きますから、このグループがその結果に大きな影響をもたらすよと。プールステージを突破するイメージを、彼女たちの心と脳に刻みつけたかった。そのために、いま一緒にいると話しました。
タイトファイブとSHのグループでこれだけの日数(2週間の合宿を3回)、合宿ができることが恵まれた状況であることも理解させたかった。最大限のことを得たいと思います」
――スタッフを見ると、2年前まで日本代表として活動していた谷口令子さんがアシスタントS&Cコーチに入りました。
「ノリコはナショナルチームの活動からは引退しましたが、これからコーチの道を歩む中で、すでにたくさんのものを備えている。選手としての経験、スタンダードの高さ、アティチュード。それらはこのチームに良い影響をもたらしてくれています。また、この新たな道のりを会社が支えてくれているのは素晴らしいことです。私は引き続き、彼女に叫び続けることができます(笑)。
女性コーチが少ないという課題が話題に上り続けるのにはうんざりしていますから、少しでも多くの女性コーチを増やすことも私の仕事のひとつと思っています」
――それはHCという役職を超えた仕事ですね。
「はい。オクトパスジョブです(笑)」
――WXVを終えた後、国内の15人制シーズンがありました。成長を感じた選手はいますか。
「吉本芽以です。この大会(太陽生命)でのパフォーマンスにはすごく満足しています。彼女のチーム(ナナイロプリズム福岡)は十分なゲーム数を確保できる環境ではありませんが、彼女はWXVで学んだリーダーシップを見せてくれています」
――全国女子選手権を見た印象はいかがでしょう。特に決勝はハイレベルでした。
「レベル自体は毎年良くなっているのは間違いないです。われわれもいくつかの部分では貢献できていると思っています。決勝のレベルの高さは、各クラブが15人制にしっかり投資をし始めたことを反映しています。選手のリクルートやさまざまな資源への投資であったり、よりシリアスに向き合ってくれている。
ただ、残念ながら15人制の試合自体は決して多くない。例えばRKUグレースはどう連携していけばいいか、どうプレーしていけばいいかを分かり始めたところでシーズンが終わりを迎えてしまった。日経大など若い選手が多いチームはどこもそうです。2倍くらいの試合数が必要でしょう。日本の女子ラグビーが発展していくための次のステップはそこだと思います」
――W杯まで1年半を切りました。
「(2021年のW杯を終えて)NZから帰ってきた時から次のW杯への準備は始まっています。昨年もその準備に費やしてきました。昨年は、自分が活躍できる瞬間を見つけた選手が多くいました。
ただ何人かはその瞬間を見つけられなくて、自分はそれを探さなければいけないと気付いた選手もいた。われわれのチームはまだ同じポジションに新しい選手がどんどん入ってきます。誰を選ぶか難しいという意味でチャレンジングな時間を過ごせているなら、それこそが成果だと思っています」
――昨季は若いメンバーに経験を積ませました。今季はどんな起用法を考えていますか。
「どの選手にもまだチャンスを掴む可能性があります。昨季のメンバーも経験を積んだといっても、まだ全員若いですから。これまで一緒にやってきた選手たちと、まだ呼んだことがない新興勢力とでは、あまり大きな差がないと思っています。自ら手を挙げ、実力を示したいと願う選手にはタイミング次第でそうした機会を与えていきたいと思います」
――残りの期間、一番はどこに注力していきますか。
「チームとしてクォーターファイナルに行くというゴールを心から信じられるかが、スタート地点です。現実的で妥当な目標であること、その目標に対して一人ひとりの一つひとつの行動に責任があることを、心から理解しないといけない。
なぜなら、われわれがそこに辿り着くためにはやるべきことがたくさんあるから。一人ひとりが自分の役割に責任を感じた上で、それぞれの仕事をやることが大事になる。
他の国々がどれだけ発展しても、準々決勝進出は可能な範囲だと思っています。選手たちはそのことをすでに今回の合宿で示してくれている。やるべきことをしっかりやるということを実践してくれています」
5月下旬には「女子アジアラグビーチャンピオンシップ2024」が始まる。22日に香港、27日にカザフスタンと対戦。優勝チームはW杯とWXV2の出場権を得る。
◎女子日本代表活動スケジュール
3月18日~31日 女子15人制強化・TID合同合宿(JAPAN BASE)①
4月8日~21日 女子15人制強化・TID合同合宿(JAPAN BASE)②
4月29日~5月6日 女子15人制強化・TID合同合宿(JAPAN BASE)③
5月13日~18日 女子15人制強化・TID合同合宿(JAPAN BASE)④
5月19日~28日 女子日本代表香港遠征
*①~③は、主にFWと対象とした合宿。一部BKも参加
◎女子15人制強化・TID合同合宿(JAPAN BASE)④ 参加メンバー
【PR】
加藤幸子(横河武蔵野アルテミ・スターズ)
左高裕佳
北野和子(MIE PEARLS)
永田虹歩(MIE PEARLS)
町田美陽(日経大女子ラグビー部)
峰愛美(日体大ラグビー部女子)
【HO】
公家明日香(ARUKAS QUEEN KUMAGAYA)
谷口琴美(横河武蔵野アルテミ・スターズ)
小島晴菜(YOKOHAMA TKM)
【LO】
佐藤優奈(東京山九フェニックス)
西村澪(日体大ラグビー部女子)
吉村乙華(ARUKAS QUEEN KUMAGAYA)
【FL/NO8】
向來桜子(日体大ラグビー部女子)
永井彩乃(YOKOHAMA TKM)
長田いろは(ARUKAS QUEEN KUMAGAYA)
細川恭子(MIE PEARLS)
【FL/CTB】
畑田桜子(日体大ラグビー部女子)
【FW】
香川メレ優愛ハヴィリ(ナナイロ プリズム福岡)
【SH】
阿部恵(ARUKAS QUEEN KUMAGAYA)
妹尾安南(東京山九フェニックス)
津久井萌(横河武蔵野アルテミ・スターズ)
【SO】
大塚朱紗(ARUKAS QUEEN KUMAGAYA)
【CTB】
安藤菜緒(BRAVE LOUVE)
垂門奈々(日経大女子ラグビー部)
弘津悠(ナナイロ プリズム福岡)
古田真菜(東京山九フェニックス)
原田紗羽(日経大女子ラグビー部)
【WTB】
安尾琴乃(BRAVE LOUVE)
【FB】
西村蒼空(MIE PEARLS)