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恒例!リーグワン時評座談会[プレーオフ直前編]いよいよポストシーズン。勝ち抜くのはどこか。【ラグビーマガジン6月号・再録】

2024.05.07

盤石の歩みを続けるワイルドナイツを率いるHO坂手淳史。自身も充実期(撮影:松本かおり)

出席者。左から野村周平[朝日新聞]、谷口誠[日本経済新聞社]、向風見也[ラグビーライター]。進行役は直江光信[ラグビーマガジン編集長]

 レギュラーシーズンの最終盤を迎えたリーグワン。4月に入ってプレーオフ進出チームが続々と決まり、トップ4の顔ぶれも固まりつつある。首位を快走するワイルドナイツに死角はあるのか。追走者たちの現状は。日々現場で取材を続けている記者3人に、中盤戦から終盤戦の戦いを振り返りながらノックアウトステージを展望してもらった。

※4月25日発売のラグビーマガジン6月号に掲載の記事を再録。座談会は4月第2週末の第13節終了時点で実施。文中の各成績は第13節終了時点。選手・コーチの人名は敬称略。

ワイルドナイツ、盤石。一発勝負ならブレイブルーパスにもチャンスあり!?

――今回のテーマはディビジョン1の中盤戦〜第13節までを振り返ってのプレーオフ展望です。まず上位陣の印象から聞かせてください。

「連戦でどのチームにもケガ人が出ている中、出来幅が変わらないチームが上位にいると感じます。ワイルドナイツはLOルード・デヤハーやPR稲垣啓太が欠場していても、しっかり勝利を取れている。ブレイブルーパスもNO8リーチ マイケルが抜けたのにプレーの質が落ちていない。サンゴリアスもイーグルスもそうですよね」

谷口「上位のチームは選手層が厚い。その中でもワイルドナイツの安定感は際立っているし、例年以上に今季はレギュラーシーズンでの強さを感じます。去年の悔しさもあると思いますが、内容に隙が見当たりません。スタッツを見てもほとんどの数値がトップです」

野村「リザーブにいるHO堀江翔太やSH内田啓介ら、試合を締められるベテランの存在も大きいですよね。他のチームは若返りが進んでいるけど、ワイルドナイツは歴戦の強者たちがひとつの鍵になっている。勝った経験がある人だからこそわかる戦い方を、サンゴリアス戦(第7節/24-20)で感じました」

谷口「今年のワイルドナイツを見ていて思うのは、近場のアタックのうまさです。スタッツを見ると、パスの本数が上位陣の中では一番少ない。なぜ少ないかというと、今季はディフェンスで外に人数をかけてプレッシャーをかけにくるチームが多く、そうなると当然内側が薄くなる。ワイルドナイツはそこを突いてきているように感じます。もちろんそこで前に出られる強さがあるからできることですが、元々ワイルドナイツはそういうディフェンスをしてきたから、逆にどこが攻めやすいのかもわかるのかもしれません」

野村「クロスボーダーのチーフス戦を見て思ったのですが、FLラクラン・ボーシェーにしてもCTBダミアン・デアレンデにしても、トップレベルの人たちが献身的に役割を果たしているのがすごい。CTBディラン・ライリーも、ワールドカップ時は調子を落としていた印象ですが、デアレンデに引っ張られてどんどんよくなってきた。あの両CTBが盤石だから、攻守とも隙がないのかなと思います」

「FL福井翔大がいっていたのですが、ワイルドナイツは全選手がチームのシステムをリスペクトしている。だからうまくいかない時もこれをやれば大丈夫、というものがある。それがないと、誰かが勝手なことをし始める、と」

谷口「選手起用も、うまく選手を休ませながらやり繰りしていますよね。ロビー、ディーンズヘッドコーチ(HC)は『ローテーションではなく、スコッド全体のマネジメント』といっていますが、そうすることで若手も育つし、ケガ人が出た時もガクッと戦力が落ちない」

野村「以前飯島均GMから聞いたのですが、ワイルドナイツは他のチームより全体練習の強度が低いそうなんです。もちろん強度を上げてやることで得られるものもあるんだけど、マイナス面もあると」

――前半戦でちょっと飛ばしすぎではないかという声もありましたが、その影響は感じますか。

谷口「今の段階では感じません。プレーオフに入った時にどうかという懸念はありますが、それだけ休養を意識していたら大丈夫なのかもしれない。他のチームもかなり飛ばしていますし」

ブレイブルーパスのワーナー・ディアンズ。ワールドクラスのLOへと成長中(撮影:松本かおり)

爆発力あるルーパス。サンゴリアスも虎視眈々。

――ブレイブルーパスも13節でプレーオフ進出を決めました。

「戦い方とキャラクターがシンクロしてきた感覚は、一昨年あたりからあったと思います。そこにSOリッチー・モウンガとFLシャノン・フリゼルが加わったらより機能するようになったというのが、今のブレイブルーパスだと思います」

谷口「接点無双というのを2年前から掲げて、今まさにそういうチームになってきましたよね。ほとんどの相手に対してコンタクトで優位に立てる。さらにそこへモウンガのようなコントローラーが加わると、ここまで強くなるんだなという印象です。LOワーナー・ディアンズを筆頭に、若手もすごく成長している」

野村「ワーナーはまだ3シーズン目ですよね。それであれだけ活躍するのだからすごい」

「トッド・ブラックアダーHCが就任してからS&Cの数値を国際基準に設定するようになったそうで、あるベテラン選手は『若い選手の地力が数年前とまったく違う』といっていました」

――ワイルドナイツとの差は、実際どれくらいあるのでしょう。

野村「HO原田衛のような若いリーダーが成長してきましたし、ここからさらにケミストリーが起こったら、という楽しみはありますよね。モウンガにフリゼル、リーチと幹はしっかりしているから、若い選手がもっと主体的に動けるようになったら、さらに伸びるかもしれない」

谷口「爆発力があるし、点は取れる。一気に先行する流れになれば、おもしろいと思います」

測定でもキャリアベストの数値を残しているというサンゴリアスSH流大。31歳の現在がピーク(撮影:毛受亮介)

――サンゴリアスもトップ4圏内を維持してきました。

「スティーラーズ戦に勝った試合(第12節/36-27)はディフェンスの役割を見直したそうで、危機を防ぐシーンが数多く見られました」

谷口「シーズン前にSH流大が、『今季は前に出られるキャリアーが少ないからみんなで戦わなければ』といっていたのですが、NO8タマティ・イオアネやCTBイザヤ・プニヴァイらゲインできる選手が出てきた。いいチームになってきたと感じます。それと、みんな本当によく走る。両WTBがエッジで仕事をした後、逆サイドまで走るんです。カラ走りに終わることもあるけど、走ることで数的優位が生まれる。あの運動量はすごいなと思います」

――プレーオフにピークを合わせてきそうな雰囲気も感じます。

「優勝経験のあるチームなので」

野村「SO髙本幹也を我慢して使ってきて、最初は苦しんだけれどここにきて伸びてきた。以前のようなアグレッシブ・アタッキングラグビーとは違って焦点を絞ったラグビーをしている印象ですが、何か蓄えているというか、牙を研いでいる感じがします」

――SH流は、キャリアベストといえるほどの好調を維持しています。

谷口「元々うまかったけど、視野がさらに広がった。第13節のヒート戦(60-10)では、松島幸太朗が空いているのに、尾﨑晟也にトライ王の可能性があるからとそこまでパスをしてトライをさせていました。SHでは今、一番でしょう」

――第13節終了時点で4位のイーグルスはいかがですか。

「SHファフ・デクラークとCTBジェシー・クリエルがケガでいなくなったのに、自分たちのラグビーをできる。ずっと鍛えてきたことがわかりますよね。沢木敬介監督は、『あの2人はゲームで何かあった時に正しいプレー選択をチームにさせられるレベルが高い。今は彼ら以外の選手でそれを養っている最中』という内容を話していました。2人がいなくなって最初のゲームとなった第6節のスティーラーズ戦で、27-31と接戦にできたことが大きかったと思います。自信をつけた上で、さらに悔しさも味わえた」

――得失点差は上位陣で一番少ない。

谷口「接戦をものにできるのは、やはりSO田村優の存在だと思います。さらに余裕が出てきたというか、サンゴリアス戦の最後の逆転PG(第11節/37-35)を蹴る前も笑顔で、あれを見て入るなと思いました」

――最後に測ったように逆転するまでの手綱さばきは見事でした。

「変なトライの取られ方さえしなければ、絶対にひっくり返ると思っていたといっていました」

野村「SNSで武藤ゆらぎについて『向こう10年キヤノン、日本代表をリードする選手です。キヤノンで優勝、彼を日本でベストな10番にする。これ僕の最後の仕事』と書いていて、そんなことをいうようになったのか、と驚きました(笑)」

第11節サンゴリアス戦で見事に大逆転勝利を演出したイーグルスSO田村優。まさに今が円熟期(撮影:松本かおり)
これぞ世界最優秀選手の迫力。スティーラーズに特大のエナジーをもたらしているNO8アーディ・サベア(撮影:毛受亮介)

ダイナボアーズさらに躍進レヴズは強みを尖らせる

――スティーラーズは要所で大事なゲームを落としたのが痛かった。

「デイブ・レニーがHCになって、役割が明確化されたということを複数の選手がいっていました。ディフェンスが去年からはるかによくなったし、アタックは元々すごい」

谷口「去年より相当良くなったと思います。ラインブレイク数はワイルドナイツに次ぐ 2番目。NO8アーディ・サベアがいるし、CTBナニ・ラウマペも効いている。ただ、セットプレーが安定しない。そこはまだ手が回ってないんでしょう」

「レニーさんも、改善すべき点がたくさんあって、ちょっとずつよくなっているけれど時間はかかる、と。それでもトップ4に迫るところまできたのはさすがだと感じますが」

野村「神戸は元々スクラムがよかったのに、ベテラン勢が引退したらその強みを継承できなかった。それが今になって響いているのかもしれません」

――ただ、スティーラーズが強いとリーグが盛り上がる。

谷口「ブレイブルーパス戦(第13節/40-40)も、ビジターゲームでしたが盛り上がりました。秩父宮で神戸コールが沸き起こりましたから」

――中位以下で印象に残ったチームを教えてください。

「ダイナボアーズ。メチャクチャ鍛えてきたチームに、ブレイブルーパスのアタックを向上させたジョー・マドックがアシスタントコーチで入って、またよくなった」

谷口「1年であれほどモデルチェンジできるのも珍しいですよね。去年までは攻め込んだところでなかなか取りきれなかったけど、今年はアタックが本当におもしろい。グレン・ディレーニーHCが開幕前に『マドックの加入が最大の補強』といっていましたが、本当にそうだったなと」

「マドックも、やはり選手が『自分の役割を明確にしてくれるのでわかりやすい』といっていました」

谷口「そのぶんディフェンスに割く時間が少なくなって、トライを取られやすくなったところもあるけど、両方いっぺんにやるのは難しいので仕方ないところもある。いまや完全にD1に定着したと感じます」

――やることが明確といえば、ブルーレヴズもまさにそんなチーム。

谷口「ヴェルブリッツ戦(第11節/24-8)の後、藤井雄一郎監督が『これをやると決めたことをできるチームになってきた』といっていました。あの試合は外に人を配置する相手ディフェンスに対し、内側を突いてトライを重ねた。そのへんの徹底がさすがだなと思いました」

野村「藤井さんはサニックスの監督の時からそうですが、選手の長所をかけ合わせるやり方で、ブルーレヴズのようなチームにはすごく合っているなと感じます。強みを徹底的に尖らせていくから、見ていておもしろい。そういう徹底ができるコーチは、そうはいません」

「ウチにはこれはできるけどこれはちょっと、という選手がたくさんいて、いいところをつなぎ合わせている、と藤井さんはいっていました」

野村「岡﨑航大をSHにしたのもそうですよね。リソースを使い切るのがうまい」

――昨季優勝のスピアーズは、一転して苦しい戦いになりました。

谷口「HOマルコム・マークスとSOバーナード・フォーリーが抜けたのは相当痛かったと思います。ただ、ここまで沈むとは予想していませんでした。マークスの存在がこんなに大きかったんだと、あらためて感じました。セットプレーの安定感がまったく違う」

野村「メンバーを見ると、全然悪くないんですけどね。マークス不在がとにかく痛かった」

谷口「SHにもケガ人が続出して」

「ただ大学生のリクルートはここ数年成功しているので、来年、再来年はよくなると思います」

今季はアタックで大幅な進歩を遂げたダイナボアーズ。写真はその牽引役であるNO8ジャクソン・ヘモポ(撮影:Hiroaki UENO)

ファイナルはワイルドナイツ×ルーパス!?

――個々で印象に残った選手は。

谷口「サンゴリアスのWTB尾﨑晟也。元々足が速くてトライを取れる選手ですが、それ以外の仕事量が増えました。本人もいっていましたが、チェスリン・コルビの影響が大きかったそうです。あの体であれくらいやるから、コルビより大きい自分は言い訳できないと。ブレイクダウンでの仕事量やボールを持つ回数が増えて、裏へのキックもうまくなった」

野村「ベタですけど、モウンガ。強いチームのSOって、エグジット(自陣からの脱出)がすごくうまい。だから自陣でプレーしていても、彼にボールを預ければ安心、となる。タッチキックの距離、ボールの配し方など、すべてが適切だと感じます」

――自陣だからとあわてて蹴り出すようなところがない。

野村「よく海外の選手が日本のラグビーはテンポが早くておもしろいといいますが、モウンガは『少し早すぎる。落ち着かせるところは落ち着かせないと、このリーグは発展していかない』といっていました。そういうこともちゃんといえるところが、彼の真面目さを表している。いい選手だし、いい人間なんだなと」

「私はFLラクラン・ボーシェーとLOリアム・ミッチェル。ワイルドナイツのディフェンスは組織として機能するのですが、そのシステムの中でいいタックルをしている人、いいジャッカルをしている人といえばこの2人かなと思います。あとはブレイブルーパスのHO原田衛。コンタクトが強くて、走力がある。リーチに聞いたら、『セットプレーも強いからヨーロッパで通用する』といっていました」

谷口「今季はHOがいいですよね。サンゴリアスの堀越康介もいいし、ワイルドナイツの坂手淳史もいい」

――私はワーナー。ジャパンのキャプテンになってほしいと思っています。みなさんの「ぜひこの人をジャパンに」という選手は。

「スピアーズのSH藤原忍です。ディフェンスで必ずいいところにいるし、アタックでも相手が嫌がることをできる。フラン・ルディケHCに『9番は王様のようにプレーしなさい』といわれて、それを意識しているそうです」

谷口「藤原は性格もテストマッチ向きだと感じます。人を食ったようなところが、田中史朗に似ている。私のお勧めは尾﨑晟也とブレイブルーパスのSH杉山優平。地味なところだと、ワイルドナイツのFL大西樹も体の強さがある。田村優の復帰も見てみたいですね」

野村「私はスティーラーズの松永貫汰。兄の拓朗もいいですが、WTBの弟はよりチャンスがあるかなと」

――最後に、ズバリ優勝チームは。

谷口「ワイルドナイツといわざるを得ません。プレーオフになるとどこも手堅くなるので、ハイボールも含めてキックが増える。ワイルドナイツはキックゲームがすごくうまいですよね。そのよさが、益々引き立つような気がします」

野村「期待を込めてブレイブルーパス。ここからぐっとまとまって、リーチのリーダーシップとモウンガ、フリゼルが噛み合い、ラインアウトが安定すれば。ほとんど接戦をしていないワイルドナイツをあわてさせる個々の強さ、鋭さは、ブレイブルーパスが一番のような気がします」

「ワイルドナイツとブレイブルーパスの決勝対決になったら、おもしろい試合になると思います。ブレイブルーパスが一度も持ち味を出せずに終わるということはないでしょう。一方でワイルドナイツも、目に見えない慢心や油断を本当に警戒して過ごしている。去年を落としているからこそ、今年は優勝の確率が高いと思います」

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