まどろっこしい表現に、自分に納得できていないことが理解できた。
「悪くないけど、もっとできる。徐々に上がってきている感覚ですが、めちゃめちゃ良くはないって感じです」
コンディションを問われて箸本龍雅は、そう答えた。
第13節を終えてリーグワン、ディビジョン1の3位につけている東京サントリーサンゴリアス。箸本は同チームの今季全13試合のうち9試合に出場している。
そのうち4試合が先発だった。
昨季はプレーオフも含めた全18戦のうち15戦に出場。チームのバックローに欠かせぬ存在となった(9戦先発)。
今季は各試合のスタッツで前年より数値がいい。しかし本人の自己分析が芳しくないのは、プレーのクオリティーに満足できていないからだ。
「プレーの質も、昨季よりはいいし、ディフェンスにいく回数も増えています。ただ、(求められているレベルの)ボールキャリーでチームを前に出すところが物足りない。1回のボールキャリー時のインパクトや、チームを前に出す力が足りていません」
第11節の横浜キヤノンイーグルス戦のメンバーから外れた時には、田中澄憲監督から、その点を指摘された。
ツイ ヘンドリックがボールキャリー時に見せる推進力と比べると物足りない、と。
そのパンチ力不足を回数でカバーする手はある。しかし現状では、「そこ(運動量)は評価しているから、もうプラスワン、チームを前に出すボールキャリーのインパクトを出してくれないと試合には出られない」と言われた。
インパクトのパワーアップは簡単ではない。しかし他の領域、攻守両面でボールに絡む機会が増えたのには理由がある。自分の役割を明確にできているからだ。
週初めに提示される試合へのプランについて時間をかけて理解し、率先して動いている。
「以前なら先輩たちに引っ張ってもらっていたところを、自分から周囲にも声をかけて動くようにしています」
2021年の春にチームに加わった。いつまでも若手とは言っていられない。
プレーも姿勢も、周囲への影響力を求められる。
第14節の静岡ブルーレヴズ戦(4月19日)では21番をつけてベンチスタートとなった(リザーブにFW6人)。
今季、第5節で戦った時には29-25と競り勝った相手だ。その試合に8番をつけて先発した箸本は80分ピッチに立ち続け、後半38分に逆転のトライを挙げた。
しかし、その試合のレビューでの個人評価は低いものだった。
だから今回の対戦では質高くプレーして勝利に貢献したい。結果を積み重ねる以外に、出場機会を約束するものはない。
ブルーレヴズとの対戦を前に、「間違いなくFW戦になることは分かっている」と言った。
「セットプレーを強みにしているチームです。そこを絶対に抑える。そして、ゴール前で強い選手がどんどん走り込んでくるようなアタックなので、そこのフィジカルバトルで負けないようにしないと」と気を引き締める。
相手の前節の試合、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦を見て感じたのは、後半ピッチに立つインパクトプレーヤーの激しさだ。
PRショーン・ヴェーテーやバックローのヴェティ・トゥポウ、シオネ・ブナら、若くてサイズに恵まれた選手たちとの勝負にフォーカスする。絶対に負けない。
FW戦を生命線とする相手との対戦は、「始まる前までは緊張はします。覚悟がいる。でも、実際に(戦いに)入ったら楽しくなる」と表情を崩した。
FWプレーヤーとしての真価が問われる時間が近づくと、アドレナリンが湧いて出る。
相手の弾丸ランナーたちを思い浮かべ、「バチンと止めて目立たせないようにしたい」と静かに言った。
この人、不適な笑みを見せたときには、いつも無双の働きをする。