4月16日、車いすラグビーの国際大会「2024 Wheelchair Rugby Quad Nations」(以下、クアードネーションズ)がイギリス・ウェールズで開幕した。
3日間にわたり熱戦が繰り広げられる今大会には、パリ・パラリンピックに出場するイギリス(世界ランキング4位 ※)、アメリカ(同1位)、フランス(同6位)、日本(同3位)の4か国が参加している。
※2023年11月24日現在
東京パラリンピックで金メダルを獲得したイギリスと、昨年おこなわれたパラリンピック予選の各大陸チャンピオン(アジア・オセアニア:日本、南北アメリカ:アメリカ、ヨーロッパ:フランス)が集結するとあって注目度の高い大会となった。
2019年大会以来の出場となる日本は、国際大会の経験が浅い若手を多く含むメンバーで今大会に臨み、パリ・パラリンピックとその先に向け、チームの底上げと選手層の拡大を図る。
日本代表が今大会で掲げるテーマは「学びとチャレンジ」。勝ち負け以上に、強豪との戦いの中でどんどんチャレンジして貪欲に学ぶことが目的だと岸 光太郎ヘッドコーチは語る。また、チームとしては「ラインアップの自主性」にも取り組み、ベンチからの指示を待つのではなく、コート上の4人がコミュニケーションを取りながら、みずから考え判断し、試合をコーディネートすることを目指す。
大会初日の4月16日、日本は、全チーム総当たりの予選ラウンド2試合に臨んだ。
デーゲームでおこなわれたフランスとの初戦。橋本勝也—池 透暢—草場龍治—長谷川勇基のラインアップでスタートした日本は、圧巻の立ち上がりを見せる。4人が連係してトライを重ね、アグレッシブなディフェンスでターンオーバーを次々と奪いリードを広げる。
なかでも長谷川と草場のローポインター(障がいの重い選手)陣の先を読むプレーが光る。フランスのエースに果敢なタックルを浴びせた、草場の渾身の一撃がチームの士気を高めた。
ラインアップを交代しながら試合を進める日本は、徐々に相手の強いプレッシャーからボールハンドリング等でミスが生じると逆転を許し、22-26のビハインドで前半を終えた。
昨年10月にフランス・パリで開催された「国際車いすラグビーカップ」では大接戦を繰り広げた両者。自国開催となるパラリンピックに向けてギアを上げるフランスは、ここ数年ほぼ固定メンバーで国際大会に出場しており、今大会もチームの完成度を高めることに注力しているように見受けられる。
第3ピリオドで日本は点差を離されまいとくらいつくが、第4ピリオド中盤からパスが思うように通らない時間帯が続き、46-55で試合を終えた。
そして、ナイトゲームとしておこなわれた地元・イギリスとの予選ラウンド第2戦。
キャプテンの池と池崎大輔、攻守において要となるベテランのハイポインター(障がいの比較的軽い選手)2名が体調不良で欠場するなか、10名のメンバーで試合に臨んだ。
そのうちの4名が2022年以降に国際大会デビューをした若手という布陣ながらも、「みんながこの状況をポジティブに捉えた。プレータイムが増えてたくさん経験ができる。たとえ失敗したとしても、絶対にそれは次につながる失敗になるので、どんどんチャレンジしようと話した」と、ゲームキャプテンを務めた中町俊耶は語る。
試合は、序盤からターンオーバーを奪われ苦しい展開が続くが、そんな時ほど、これまで取り組んできたスペースを広く使う日本のラグビーに全員が努めた。
リオと東京の2大会連続でパラリンピックに出場した乗松聖矢がコートでリーダーシップを発揮し、高校生の頃から日本代表として経験を積んできた橋本勝也がエースとして、トライゲッターとしてプレーでチームを引っ張る。
じわじわと相手にリードを広げられ点差は開いていくが、ボールを必死につないでゴールを目指し、27-33で試合を折り返した。
パラアスリートは、病気や事故などの理由で後天的に障がいを負って競技を始めるケースも多いため、一概に年齢で競技歴は計れないが、今大会のイギリス代表は半数近くが40代のベテランチームで、経験というものの大きさを体現している。
スムーズな連係も、長年にわたり代表チームで培ってきた時間と経験が成し得る技だ。加えて、2022年に開催されたローポインターのみが出場する世界大会で、イギリスは金メダルを獲得している(日本は銀メダル)。主にディフェンスを担うローポインターのスピードと強さ、プレーの質も、レベルの高さを見せつけた。
その熟練さに比べると粗削りなのは否めないが、若き日本代表は一瞬たりとも走ることをやめたり、あきらめることなくボールを追い続け、そのハードワークは観客を飽きさせることがなかった。
流れを引き寄せたかと思えばすぐに戻され、けっして楽な時間帯はなかったが、懸命にトライを奪うとベンチから大きな声があがり仲間を鼓舞した。日本が目指すラグビー、地道に積み上げてきた自分たちがやりたいラグビー、それがしっかりと伝わる試合だった。
チャレンジだらけの32分間の末、47-58と日本は大敗を喫した。けれども、誰ひとりとして下を向いてはいなかった。
試合終了をコート上で迎えた壁谷知茂は「ずっと苦しかった」と率直に心境を述べるも、「結果は振るわなかったが、ベテランのハイポインターがいない中で、みんなが合宿で取り組んできたこと、準備してきたことをちゃんとやろうとしていた。
強豪を相手に、これが通用しないんだと知れたことが大きな収穫になる。チームにとってすごくいい試合だった」と、冷静に振り返った。
イギリスチームが勝利し歓喜に沸く会場。観客からは最後まで戦い続けた若き日本代表にも大きな拍手が送られた。
トライアンドエラーを繰り返し、飛躍するための経験を積み重ねる、車いすラグビー日本代表。
大会2日目の4月17日は、予選ラウンド最後の試合となるアメリカとの一戦に臨む。
【2024 Quad Nations 車いすラグビー日本代表】
倉橋 香衣 0.5F
長谷川 勇基 0.5
安藤 夏輝 0.5
小川 仁士 1.0
草場 龍治 1.0
乗松 聖矢 1.5
中町 俊耶 2.0
壁谷 知茂 2.0
池 透暢 3.0
池崎 大輔 3.0
白川 楓也 3.0
橋本 勝也 3.5
※数字は障がいの程度や体幹等の機能により分けられるクラス(持ち点)。数字が小さいほど障がいが重いことを意味する。
※「F」は女性選手。