11番を背負ってからの直近の5試合で、7トライを奪った。
174センチ、85キロと大きくない体躯で、本職はCTB。しかし森勇登(もり・ゆうと)のセンスは、アウトサイドでも輝きを失わない。
東芝ブレイブルーパス東京は4月14日(日)、秩父宮ラグビー場でおこなわれたコベルコ神戸スティーラーズ戦を40-40と引き分けた。
勝ち点2を加えて2位をキープ。3試合を残してプレーオフ進出(4位以内)を決めた。
スティーラーズ戦では、好調に走り続けてきたチームの中枢、リッチー・モウンガが家族の不幸により急遽離脱した。
今季初めて、背番号10を世界的司令塔以外の選手が背負うことになった。
その状況で、国内のビッグネームが並ぶ相手と引き分けたのは大きい。
19点を先行しながらも勝ち切れなかったことは悔やまれる。しかし、モウンガだけでなく、リーチ マイケル主将もケガで戦線離脱が続いていることを考えれば、ピッチに立った選手たちの成長は確実に進んでいる。
スティーラーズ戦ではムーヴもよく決まった。
森田佳寿コーチングコーディネーターと、ダン・ボーデンBKコーチが提示する仕掛けを、選手たちで話し合い、練って、自分たちのものにして試合に臨むからだ。
開幕からの8戦中、7試合に出場してきたものの、ベンチスタートが続いていた森が今季初めて先発したのが第9節の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦だった。
その試合には24-36と敗れた。しかしチームは、そこで勢いを失うことなく、その後3連勝。そしてスティーラーズと引き分けた。
森はダイナボアーズ戦でトライを挙げると、ブラックラムズ戦、スピアーズ戦、スティーラーズ戦と、3戦連続で1試合2トライを挙げた。
チャンスに取り切る勝負強さが、チームを支えている。
もともとランニング、ステップを得意としている。そのスキルがハードワークにより、試合の中で生きている。
スティーラーズ戦でのプレーは幅が広かった。
チームの先制と3つ目のトライ時にはインサイドでパスを放り、仲間を走らせた。
前半終了間際の自らのトライはSOの横へ、絶妙のタイミング、コース取りから走り込み、インゴールに入った。
後半16分には、うまくディフェンダーをズラしたFBマイケル・コリンズの動きに呼応し、ラストパスを受け、走った。
積極的にサイドを変え、よく動いた80分。「戦術もありますが、自分の強みはタフさなので」と言う。
「東福岡高校1年時のデビュー戦はWTBでした」と笑う。
突然の起用にも対応できているのは、ラグビーナレッジの深さがあるからだろう。
FBでのプレーが続いていた松永拓朗がSOに入ったスティーラーズ戦について、「いつも通りだった」とチームの落ち着きを口にした。
しかし森は、仲間の判断が少しでも楽になるようなサポートを意識して動いた。
高校3年時は12番としてピッチに立ち続け、花園で頂点に立った。
明大に進んでも1年時から出場機会を得る。CTBとしてレギュラーを掴んだ2年時は大学日本一となった。準決勝、決勝ではSOを任された。
紫紺のミッドフィールドに4年間立った能力は、ブレイブルーパスに加わっても重宝されている。
WTBでの出場も、「チャンスがあれば動くので、インサイドでプレーすることも多い」からだ。
アウトサイドでトライを取り切れているのは、プレーの流れを的確に読み、いるべきところにいるからだ。
試合が終われば映像を見返し、自分の動きをチェックする。
ポジショニングはよかったか。動いた方向は正しかったか。見えていなかったスペースを見つけることもある。キックすればよかった、と反省することも。
その繰り返し、向上心が、パフォーマンスを支えている。
これだけWTBで結果を残しても、「やっぱりCTBで出たい」と複雑な心境を口にする。
レギュラーシーズンは残り3試合。そしてその先には、痺れるような舞台が待っている。
そのレベルの高い戦いの中に身を置けるなら、背番号なんて関係ないと、きっと思う。
もっともっと信頼を深める日々を送り、ピッチに立ち続けたい。