激戦の続く国内リーグワン1部において、次のゲームを制すればプレーオフに進める。その時に積み上がる勝ち点を鑑みると、進出枠の上位4傑から漏れなくなるからだ。
大台達成が近づいていた4月15日、東京サントリーサンゴリアスの田中澄憲監督は「あ、そうですか。確定ですか?」。自分の高校では2年生の頃から数学の授業がなかったから計算が不得手なのだ、といった類の冗談を述べ、近くにいたスタッフに「きょうも、ミーティングでその話はしていないよな」。19日の第14節へ、一戦必勝を誓う。
「この(シーズン終盤の)5試合は一戦、一戦だと思っているので」
旧トップリーグ時代に優勝5度の名門は現在、12チーム中3位。次の舞台は東京・秩父宮ラグビー場で、対峙するのは同7位の静岡ブルーレヴズだ。
焦点のひとつはスクラムだと、指揮官は言う。両軍のFW8人がレフリーの合図で互いに体重をかけ合う、攻防の起点を指す。田中はこうだ。
「明らかに、スクラムじゃないですか」
ブルーレヴズは前身のヤマハ発動機ジュビロ時代から、このスクラムを戦略の柱にしている。
2011年の就任から8人一体の独自の型を作り、16年から昨秋まで日本代表のアシスタントコーチを務めたのは長谷川慎。通称「慎さん」は今季より古巣の指導陣に復帰。スクラムを専任とする田村義和とともに、伝統のプラットフォームを微修正しながら保つ。
サンゴリアスの塊を最前列で束ねるのは、HOの堀越康介。主将就任2年目の28歳は、日本代表で「慎さん」のシステムを学んでいる。このように見る。
「(ブルーレヴズには)特徴的なスクラムがある。相手の力を出させない、逆に自分たちは100パーセント(の力)で組むというものです。うまく組まれたら強力。警戒しています」
肝はセットアップ。ぶつかり合う前の動きのことだ。
双方が腕を取りあう前に姿勢、形を詳細に作り込むのがブルーレヴズ流だ。堀越は言葉を選ぶ。
「であれば逆の考えで、相手が100パーセントのセットアップではなく、70~80パーセントのセットアップをさせるのがキー。組む前の形で決まるんじゃないかと」
1月13日の第5節で同カードを29-25で制したが、スクラムのたびに向こうの「気迫を感じた」。なかでも対面で34歳の日野剛志を、「核でもあり、頭脳」と警戒する。
組んだ後にどちらが優勢に立つかは、組む前にほぼ決まるという堀越。その駆け引きの妙について、指示語でぼかしながら語る。
「(過去の)試合中、日野さんともしゃべったりしました。『俺らにはそれ、通じないよ』『それ、やりたいんでしょ』って」
ここでは、埼玉パナソニックワイルドナイツの主将である坂手淳史も引き合いに出す。坂手は日本代表としてワールドカップに2度出場のHO。長谷川のもと、坂手と堀越は切磋琢磨している。
「坂手さんも、『俺らはそんなの、わかっているから』と。そんななかでも、僕らは組まないといけない」
持ち前の勤勉さ、強靭さをスクラムはもちろん接点でも活かし、日本一への第一関門を突破したい。