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【ラグリパWest】父を感じて…。吉本芽以 [ナナイロプリズム福岡/FW]

2024.04.16

この4月に女子ラグビーチーム、ナナイロプリズム福岡に加わった15人制日本代表の吉本芽以。追手門学院大を卒業した関西出身の吉本はさらに飛躍する場所に九州を選んだ。4月6日に開幕した太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ2024の北九州大会では、すでにFWとして全6試合で先発出場を果たしている


 メイは吉本先生の娘である。

 漢字では「芽以」と書く。先生の尊称が常につく父は京都の中学界で名のあるラグビーコーチでもあった。

「おかあさんに言われています。おとうさんは後ろにいつもついてくれているから、行動や言葉に気をつけなさい、と」

 黒く丸い目はくりくり動く。22歳の活力があふれる。メイはこの4月、女子ラグビーチーム「ナナイロプリズム福岡」に加わった。チームの愛称は「ナナイロ」である。

 ナナイロが参加する女子7人制の「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ2024」(太陽生命シリーズ)は4月6日に開幕した。4戦制の第1戦は地元の北九州大会だった。

 メイは新人ながら6試合すべてにFWとして先発する。168センチの身長からくる体の強さでボールを保持し、キッカーもつとめた。追手門学院を3月19日に卒業して半月ほどだが、ナナイロの開幕3位に貢献した。

 楕円球を持ったのは父・康伸の影響にほかならない。父はFLとして伏見工(現・京都工学院)から天理大に進み、京都市の中学教員になった。専門は保健・体育。教務以外に下鴨、嘉楽、修学院でラグビーも教えた。

 著名な教え子には文字(もんじ)隆也や井口剛志がいる。SOの文字はトヨタ自動車(現トヨタV)から島津製作所に移り、井口はFBとして神戸製鋼(現・神戸S)や三菱重工相模原(現・相模原DB)でプレーした。

 その父は20年前に他界した。ガンだった。まだ39歳。メイは2歳だった。
「遊びに連れて行ってもらったことなんかをうっすら覚えています」
 2年後、京都西ラグビースクールに入れられる。母・佐江子の意向だった。夫の愛した競技に娘を向かわせる。母もまた教員である。鳴滝総合支援学校につとめている。

 中学の3年間は京都の自宅から神戸にあるSCIXに通った。「ミスター・ラグビー」と呼ばれた平尾誠二がその所属、神戸製鋼を使って作ったクラブチームだった。
「片道、2時間30分ほどかかりました」
 平尾は亡き父の高校の2年先輩だった。

 高校と大学の7年間は大阪の追手門学院で過ごした。大学4年の昨秋、LOとして初めて15人制の日本代表に選ばれる。9月30日のイタリア代表戦で交替出場を果たし、25-24の1点差勝利を支えた。

 10月13日には再びイタリア代表と戦う。これは新設された国際大会の「WXV」としての一戦であり、日本代表は6チーム構成の二部グループに割り振られた。この試合もメイは交替出場をした。試合は雪辱され、15-28だった。日本代表キャップは2を得る。

 その15人制日本代表の肩書を持ち、メイは九州にやってきた。ナナイロの本拠地は福岡の久留米である。

 生まれ育った関西を離れた理由は色々ある。1年ほど前、体験でナナイロに加わった。
「その夜、みんながごはんに誘ってくれました。とってもアットホームでした」
 チームの象徴、中村知春の存在もある。
「一緒にラグビーをしたいと思いました」
 中村は7人制と15人制の日本代表で、5年前のナナイロ創部時からの中心である。

 その上で自分の直感を信じる。
「去年からコアチームに入りました。チームとして、来るなあ、と思いました」
 昨年、太陽生命シリーズの4戦すべてに出場できるコアチームに入った。その初年の4大会の最高は準優勝。年間総合成績は4位。メイの予想は徐々に現実化している。

 久留米での生活は気に入っている。
「ごはんが美味しすぎます。焼き鳥、特に皮タレ。そこにビール。最高でーす」
 焦げ茶色に光る鶏皮がきゅっと詰まる。味は甘辛。関西でお目にかかることは少ない。
「好物はオムライスなんですけど…」
 正直を後悔。女子が顔をのぞかせた。

 ラグビーと並行する仕事は歯科助手。「筑紫野スマイル歯科小児歯科医院」で勤務についた。久留米からは北にあるイオンモール筑紫野の中にある。ナナイロを支援する医療法人の宝歯会グループが運営している。

 仕事を始める前に出場したこの北九州大会でのメイの評価は高かった。会場のミクニワールドスタジアム北九州にはレスリー・マッケンジーが視察に訪れた。15人制日本代表のヘッドコーチ(監督)である。

 そのマッケンジーの取材を明石尚之がする。月刊誌『ラグビーマガジン』の編集者である。
「成長を感じる選手に、吉本芽以さんの名前を挙げていました」
 期待度の高さは若手で屈指だ。

 ナナイロは今、7人制のチームだが、いずれ15人制にも参戦する予定だ。
「そういう話を聞いたので、このチームに決めたこともあります。両方やりたいです」
 そのモチベーションをかきたてるものには弟の存在もある。

 2つ下の大悟は京産大の新3年生。昨秋のシーズン中盤から、長いキックなどを武器にSOのレギュラーとして定着した。
「いい刺激をもらっています」
 弟は東海大仰星3年時、全国優勝を果たし、2021年度の高校日本代表にもなった。

 メイはしみじみと話した。
「ラグビーがあったおかげで、進路に迷うことはありませんでした」
 この世にたった2人の血を分けた姉と弟は同じフィールドで生きている。父は偉大である。

「吉本先生の娘というプレッシャーを感じつつ、頑張らないといけません」
 運命を知り、前に進んでゆく。そのことが父の生きた何よりの証(あかし)になってゆく。

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