ラグビーリパブリック

〈ゴリは見た!〉全国高校選抜大会レビュー。「今季は団子状態。花園は大荒れ模様と予想します」

2024.04.10

 大阪桐蔭の11年ぶり2度目の優勝で幕を閉じた第25回全国高校選抜大会。準優勝の石見智翠館は12年ぶりに決勝の舞台に立ち、目黒学院、東海大相模の躍進や東福岡の初戦敗退、東海大仰星も2回戦で敗れるなど、近年の力関係が大きく崩れる結果となった。

 ラグビーマガジン5月号(3月25日発売)に掲載したプレビューに続き、今大会のレビューを日本協会の野澤武史TIDマネージャーにお願いした。野澤TIDマネージャーは「不思議な大会だった」と今大会を総括する。

――プレビューでは、優勝予想で「ズバリ、大阪桐蔭!」と話していましたね。

 予想通りではありました。(大会前に)ほとんどのブロック新人大会を見て回りましたが、大阪桐蔭は頭ひとつ抜けていた。

 9番、10番、12番と、ゲームを組み立てるポジションに1年生の時から出ているチームはなかなか見られません。しかも、そのメンバーで去年は花園ベスト4まで行ったので、(能力だけでなく)経験値の面でも他校を上回っていました。

 上田(倭楓/SO)は今大会のMVP。満場一致ではないでしょうか。
 キャプテンの名取(凛之輔/CTB)は智翠館の祝原(久温/NO8)とともに背中で仲間にメッセージを伝えられる昭和の匂いのするキャプテン。オジサン受けしますね(笑)。両者とも準決勝のプレーは凄まじかった。
 川端(隆馬/SH)のランも光っていました。

 その3人だけでなく、FWの奮闘も目を引きました。去年と比べればサイズこそ劣りますが、特に準決勝での桐蔭学園戦ではスクラムでペナルティを何度も取っていた。

 優勝チームは攻防でも二の矢、三の矢まで用意している。そうした強さを感じました。(決勝で2トライを挙げたCTB)竹之下(誠仁)がリザーブというのも脅威です。

――準優勝の智翠館の強さはどう見ましたか。

 中学3年時に全国ジュニアを制した、福岡県選抜の主力が新3年生になりました。祝原をはじめ、LO山根風雅、SO原田崇良は1年時から花園を経験したメンバーたちです。

 ただ近年は全国大会でベスト8以上の経験がなかった分、トーナメントを勝ち上がる上で重要になってくる「疲労慣れ」が勝敗に影響を与えたと思います。

――その影響か、チームの要でもあった両LOを交代していました。

 監督も安藤先生(哲治・現部長)から出村先生(知也)に代わり、そうしたマネジメントも初めてだったと思います。限りある選手と体力というリソースを、適材適所でいかにやりくりするか。高校ラグビーはシンプルな実力に加え、こうした「人的マネジメント」が重要であると改めて感じました。
 なので、智翠館にとって久しぶりの決勝進出は、冬への大きな布石になるのではないでしょうか。

――大阪桐蔭に敗れて4強の昨季王者・桐蔭学園はどうでしょう。

 この組み合わせの中で準決勝までよく勝ち抜いたと思います。1回戦で長崎北陽台、2回戦で東海大仰星を破りましたから。ダメージは相当なものだったでしょう。
 敗れた2チームも力はあります。北陽台も今年はかなり良いメンバーが揃っているし、仰星は今大会U17日本代表の2人(LO百武聖仁、NO8駒井良)が不在であの試合内容です。

 桐蔭の課題は10番でしょうか。関東新人からチームを追いかけていますがなかなか10番が定まっていません。今大会でSOを務めた竹山(史人)は本来9番の選手ですし、それまでのSOでCTBに移った徳山(凌聖)はタックルが光っていてCTBの方が合っている。1年で関東大会を経験した丹羽(雄丸)はケガで離脱中と聞いています。逆にSOがバチっと決まってくると伝統のBKが一気に火を吹く可能性が高い。

 FWに目を向けると、井吹、中森、城ら優勝メンバーのサイズのある3年生が抜け、準決勝はスクラムで苦しみました。ただ、看板の申(驥世/FL)、新里(堅志/NO8)は健在で、HOの堂薗(尚悟)は新2年生ですがワークレートが高く素晴らしい選手です。
 BKも合わせてここからのチームと言えるのかもしれません。藤原先生もここからテコ入れをして秋にはまったく別のチームに仕上げてくるでしょう。

――國學院栃木は十八番の堅守で勝ち上がりました。

 プレビューでも話した通り、ブロック新人では近畿のコリジョンの威力が抜けていたので準々決勝は御所実に分があると見ていましたが、見事勝ち切りました。
 言わずもがなですが、コクトチの粘り強さは素晴らしい。ディフェンス、ブレイクダウン、ハイパントキャッチ、と試合の軸となるプレーの質が高いので接戦でも動じない。

 御所実のFWはサイズもあって相当重たかったと思いますが、それでも我慢できた。突出した選手がチームを引っ張るのではなく、全員が連動してパフォーマンスを出すのがコクトチのお家芸です。
「新しいラグビーのジュニア(航太郎)」と「昭和ラグビーの父(肇)」。W吉岡の良いところがうまくミックスされているのではないでしょうか。

 アタックではSHの下井田(雄斗)が光っていました。我慢するフェーズとテンポアップするフェーズの見極めが上手い。同じ人数なら外勝負できるBKと、そこまで我慢できるFWがそれを下支えしている。

 そういう意味でも大阪桐蔭とコクトチは、実は似ています。難しいストラクチャーを組むのではなく、攻撃でも我慢しながら相手が立つ位置や人数などを間違え時に、その一瞬を見逃さずものにするのです。

――ベスト8はプレビューの通りとはなりませんでしたね。

 九州が1チームも残らず、関東が3つも残ったのは興味深い。しかも、その関東3チームも決勝には上がれなかった。不思議な大会でした。

 特に目黒学院と中部大春日丘は面白い存在です。どちらも主力のほとんどが新2年生でした。この春の時期に2年生チームが準々決勝まで上がってくることはまずありません。体力レベルは新3年生と比べてかなり差がありますし、ましてや選抜大会は連戦が続きますから。すでに来年が楽しみです。

 目黒は9人が2年生で、8、9、10、15の縦のラインを担っている。
 ハルヒに至っては12人が2年生です。中学3年時に愛知県スクール代表が強豪の大阪府中学校代表と同点優勝した代で、特に186㌢、94㌔のLO坪ルーター海飛には将来性を感じました。

 九州のチームも悪いパフォーマンスではありませんでしたが、今回のベスト8のチームと比べると、コンタクト局面でひ弱さを感じました。大阪桐蔭や御所実、東海大相模のような迫力やサイズのチームと戦うにはもうひと工夫必要なのかもしれません。

――久しぶりに全国大会に戻ってきた御所実の印象は。

 今年は才能あるタレントが新3年生にたくさんいます。FWはほとんど高校ジャパン候補といってもいいレベル。SHの森保(優裕)もさばきのいい選手。
 今大会はキャプテンのCTB大久保幸汰がケガで欠場していたので、まだまだ上を狙えると思います。準々決勝ではゲームプランが少し難しかったのかなと感じました。

 同じくベスト8の東海大相模もインパクトを残しました。笹部(隆毅)、加賀谷(太惟)の両LOは188㌢! PRの佐野(零樹)、NO8の藤久保(陸)らFWのサイズは迫力十分、SO長濱(堅)の飛び道具も飛距離十分です。

 天理は2回戦で敗れましたがキャプテンの内田(旬/FL)が不在でしたので、御所×天理、そして桐蔭×東海大相模の秋の争いは壮絶なものになるのではないでしょうか。

――ベスト8には届かなかったけど、可能性を感じたチームはいましたか。

 ひとつは実行委員会推薦枠で出場した成城学園。タレントもいるし、年々良いチームになっている。特にNO8の染谷(昌宏主将)はぜひ見てほしい選手です。
 元東芝の大島脩平がコーチとして入っていると聞いてきます。ますます面白い存在になると思います。

 もうひとつは松山聖陵。新2年生が10人も先発していたので、来年が楽しみなチーム。181㌢、100㌔でCTBの阿塚(心)はサイズだけでなくスキルも高い。

 九州では高鍋が良いラグビーをしていましたね。佐賀工の内田(慎之甫/FB)はこの代で一番のフィニッシャーだと思います。

――最後に。秋、冬に向けて展望を。

 僕はこの仕事を始めて11年目になりますが、仰星、桐蔭、ヒガシのどこかは頭抜けた存在で、それが当てはまらない大会は今年が初めてです。

 先発の8人が新2年生だったヒガシも含めて、2年生主体のチームがこれだけあるのも記憶にありません。そういう意味でも不思議な大会。夏のU17日本代表は今から安泰かな(笑)。

 今年は大阪桐蔭こそひとつ抜けていますが、それ以外は団子状態です。今大会ベスト8のチームがそのまま花園でもベスト8に行く感じでもないと思います。今年の花園は大荒れ模様と予想します!

Exit mobile version