3月末におこなわれた全国高校選抜大会で、初出場を飾ったのは3校。うち2校は実行委員会の推薦によるもので、唯一ブロック大会を勝ち抜いて出場を決めたのが三重の四日市工業だった。
東海高校総体で愛知の強豪である名古屋を破り、全国の舞台に立った。
その名の通り、四日市市に校舎を構える県立の工業高校だ。ラグビー部は強化指定クラブに選ばれているが、部員のほとんどがラグビー初心者。にもかかわらず、毎年1学年20人前後の部員を集めてきた。
新入生を勧誘するこの4月は、ラグビー部にとって勝負の時間だ。同校に赴任して8年目の渡邊翔監督は、「緊張して眠れなくなる」と笑う。
同監督は新入生の名簿を片手に、1年生の教室を回って片っ端から声をかける。授業では自己紹介とともにラグビーの魅力を熱心に伝える。
「(入部する生徒は)中学でサッカー部や野球部など厳しい部活を経験して、高校では続けなかった子たちが多いです。僕は(対照的に)甘々ですから」(渡邊監督)
放課後に設けているラグビー体験会まで引き込んだら、今度は「めちゃビー」で楽しませる。「めちゃビー」はめちゃくちゃなラグビーの略で、ノックオンやスローフォワードなどのルール無用。ラグビー体験でよく用いられるタッチフットでは、どうしても足の速い子が有利でサイズの大きい子が楽しめなってしまうため、その代わりとして渡邊監督が考案したものだ。
抜いたり、追いかけたりする中で、「タギる瞬間に出会えた子は入ってくれることが多い」という。
そんな初心者軍団が、いま上り調子だ。
県予選の決勝常連となり、初の花園出場を果たしたのは3大会前。第100回の記念大会で設けられた、東海ブロックの県2位同士で争うオータムチャレンジを勝ち抜いた。
12大会連続で花園出場中の朝明の壁は高かったが、昨季は7人制大会で初めて破り、夏の全国7人制大会に初出場。今季の新人戦ではついに15人制でも初勝利を挙げた。
チームの躍進を支える大黒柱がWTBの上村純大だ。2年時にはU17東海代表の主将に指名された実力者である。
中学3年時には三重県スクール選抜として強豪の愛知県スクール選抜を破り、全国ジュニアでは岩手県スクール選抜を下して大会初勝利を挙げるなど、中学時代から三重の歴史を塗り替えてきた。
当時のスクール選抜の主将は、日本航空石川で主戦SOの小嶋眞心。上村自身も、小嶋同様に県外の高校に進む選択肢はあったが地元に残った。
「高校でも三重の歴史を塗り替えたいと思いました。朝明では全国に出ても当たり前という見方をされる。初心者がほとんどのヨンコウの方が、自分の武器であるコミュニケーション力も活かせるし、なによりチャレンジャーになれる」
1年時からその野心を早くも形にしていた。12月開催の1年生大会で朝明に40-0で圧倒したのだ。
しかし、花園出場はまだ叶えられていない。1年時は7-36、2年時は24-35のスコアで敗れた。
「負ける度に、1年間の取り組みで何がいけなかったのかを考えました。チームとして本気になる時間が少なかったと思います。初心者が多い中で練習する分、低いレベルに合わせてしまう時間が長いと感じていました」
新チーム発足時、7人制を含めた県内タイトルをすべて獲る「4冠」を目標に掲げた。
それも、「本気になる時間」を増やすためだった。年末にサニックスワールドユースの予選会に初めて参戦したのもそのためだ。
「練習が緩むのはチームが始まった最初の時期が一番多い。初心者が多いので、朝明に負けてもはじめはこれくらいでいいや、となりがちだった。でも、その気持ち自体が甘いと感じていました。全部勝ちにいって、最後も勝って花園に出る。花園ではノーシードの学校を絶対に倒せるチームでありたいと思っています」
選抜大会では全国のレベルの高さを痛感した。1回戦で天理に7-88、敗者戦では東福岡に7-75といずれも完敗。上村主将は「まだまだ練習しないといけない」と反省するも、両チームからスコアを挙げているようにアタックでは自信を深めた。
「サイズが小さい分、スピードを活かそうと。全国レベルでも通用する場面はあったと思います」
トライを取られる度にハドルで熱い言葉を語り続けたキャプテンは、この先チームが進むべき道も展望する。
「自分一人の力だけでは、全国レベルにチームを持っていくのは難しいと思っています。高校からラグビーを始めた人たちがどれだけリーダーになれるかが大切。1年生が目指したいと思える見本になれるので。だから、試合中は自分が声をかけますけど、練習中は自分が言い過ぎてはダメだと思っています」
いまは部員確保にも精を出し、強化の歩みも止めない。