真っすぐ走り込んでくる大きな相手の懐へ、迷わず、正面からぶつかる。突き刺さる。
強靭さ、間合いを取る技術、何より勇気の伴うこの行動を「本質ですからね、ラグビーの」と表したのは大久保直弥。現役時代に国を代表して強烈なタックルを打ち込んできた48歳はいま、20歳以下(U20)日本代表のヘッドコーチとして就任1季目を過ごす。
自らが率いる集団の船頭にも、その「本質」を求める。
2月からFWのみの候補合宿をおこない、3月は全ポジションの選考対象者を集めて国内リーグワンのクラブとの練習試合を4度、実施。骨格の大きさに上回る猛者とのぶつかり稽古で「ひるまず」に挑めた人材を主将にした。
白羽の矢が立ったのは太安善明。オーバーエイジの選手を交えた「JAPAN XV」の主将となった。4月10日からの11日間、サモアでのパシフィック・チャレンジに参戦。環太平洋3カ国の代表予備軍とぶつかるこの大会を通し、U20日本代表が7月にスコットランドで臨む「ワールドラグビーU20トロフィー」への準備を進める。
この春から天理大の2年生だ。身長176センチ、体重92キロと決して大柄ではないが、FW第3列のFLとしてタックルで鈍い音を鳴らす。
3月8日にはU20日本代表の活動の一環で、一昨季まで国内2連覇の埼玉パナソニックワイルドナイツの控え組と激突。昨秋の日本代表メンバーで故障明けのベン・ガンターら実力者に対し、14-74と苦しんだ。
ここで気を吐いたのは7番の太安。身体衝突で魅した。
戦い終えるや、「ポイントサイド(密集の周り)を抜かれて後手を踏む場面はありましたけど、(防御ラインが)揃っている時は全員で前に出て止められた」。収穫と課題を整理していた。
「(個人的には)何本か(タックル)は、イケた感触はあった。ただベン・ガンターさんに入った時には、自分は片足一本をつかむのがやっとなのに向こうは(立ったまま)つないだ。余裕を与えたらだめ。余裕を与えないくらい、激しくいかないと」
今度の重責を告げられたのは3月31日。出国前の千葉合宿の初日だった。「正直、自分がなるとは思っていなかった」ものの、ボスのニーズはすぐに察した。
「アタックのキャリー(突進)でも、タックルでも、身体を張り続けるという部分が評価されたのかなと」
かねて大学シーンきってのタックラーとして鳴らしていた。当の本人の実感は、「高校の時、タックルは苦手やった」。同僚の外国人部員を交えた実戦練習、天理大の同級生でいまのU20日本代表やJAPAN XVにも入ったFLの川越功喜との切磋琢磨で、心技体を磨いたという。
「『うわー、今日も練習や…』というマイナスな気持ちだったら、どうしてもコンタクトで負けてしまう。普段から『よし、きょうは絶対にいったるぞ』という強気なマインドで行くことで、臆することなくできます」
ここでの「いったる」は、ライバルに強烈な一発をお見舞いするという決意の発露。いわば景気づけの調子だ。言葉よりも態度で示す人で、かつ、伝説的なリーダーでもある。
出身の天理高で主将を務めたのは2022年度。鍛錬に鍛錬を重ねるこのクラブが、選手主導のスタンスを打ち出した最初のシーズンだった。
結果は、クラブにとり4季ぶりの全国行き。天理高が件のモデルチェンジに踏み切れたのは、太安の視野の広さや責任感によるところが大きいと指摘されている。当時の経験を、本人はこう捉えている。
「試合中には監督の声が入ってこない。(U20日本代表の一員として)選手だけで話していい流れを作れるようになった意味では、(高校時代の歩みが)いいものになっています」
今度のJAPAN XVでは、リーダーシップの取れそうな複数の仲間と協働。勇敢な組織を作るか。