サクラの花が咲き始めた。
リーグワンは全日程の約3分の2を終え、終盤に入る。各チームともそれぞれのターゲットに向けてギアを上げる時期だ。
選手たちのパフォーマンスを見て、6月から始まる日本代表のメンバーに誰が選ばれるか想像する人もいるかもしない。
そのとき、HOに原田衛(まもる)の名前があるだろうと感じている人は多い気がする。
東芝ブレイブルーパス東京で今季、開幕からの11戦で10試合に背番号2を付けている(第5節の三重ホンダヒート戦だけ欠場)。
昨季は全16試合に出場し、ちょうど半分の8試合が先発だった。
慶大から加入して3季目。成長の速度をはやめる。
177センチ、102キロの体躯でスピードがある。ボールキャリーの鋭さに磨きがかかっている。
例えば第9節(3月9日)の埼玉ワイルドナイツ戦。キックオフ直後から好タックル、ジャッカル、ボールキャリーを繰り返した前半の32分過ぎだった。
ラックから右に仕掛けたSH杉山優平に呼応した原田は、鋭くカットインしながらボールを受ける。狭いスペースを巧みなステップで走り、オフロードパスを味方につないだ。チャンスを広げた。
試合には24-36と敗れるも、スキのない相手への奮闘から原田の好調さが伝わった。
次節の三菱重工相模原ダイナボアーズ戦ではチームも41-19と勝利。ワイルドナイツ戦で連勝は9で途切れたものの、この試合でふたたび上昇気流を引き寄せた。
原田は、その日も抜群の働きを見せた。
ダイナボアーズに先制パンチを打って掴んだ勝利は、開始25分で4トライを挙げ、24-0と大きくリードしたことが大きかった。
原田の好パフォーマンスは、まず前半8分過ぎ。左ラインアウトから出たボールを受けて前へ。相手防御を下げ、トライに結びつく攻撃の下地を作った。
14分には自らインゴールに飛び込む。
ピッチ中央付近でできたブレイクダウンから一気にギアを上げた攻撃を忠実にサポート。前へ出たLOワーナー・ディアンズを追い、CTBロブ・トンプソンからのパスを受けて走り切った。
アップスピードをテーマに臨んだ試合で、やるべきことを実践。攻守とも相手より先にセットする意識を持つ点でも、周囲の先頭に立って動いた。
ダイナボアーズ戦への準備を重ねる日々の途中、府中での練習をオールブラックスの新指揮官、スコット・ロバートソン ヘッドコーチ(以下、HC)が視察した日があった。
同氏が「原田を(NZへ)連れて帰りたい」と言ったと、トッド・ブラックアダーHCがコメントを紹介した。
隣に座っていた原田は「ジョークです」と笑うも、目に留まる存在だったことは確かだろう。
充実の理由を、本人は昨季のオフの過ごし方にあるという。自身の強みを「スピード」と理解し、その才能をさらに高めるトレーニングに計画的に取り組んだ。
「1週間(単位)の計画を立てて取り組んだ」ことが効率を上げた。
結果はボールタッチの回数の増加に結びつき、ボールキャリーの際の鋭さ、力強さも高まった。
「日本代表になりたい」とはっきり口にする。
その意欲も進化を後押ししている。
キャプテンのリーチ マイケルが第7節の横浜キヤノンイーグルス戦でケガ。戦列を離れてからは、副将の原田がゲームキャプテンを務めてきた。
練習も含め、ハドルの中で話す機会が多くなった。その環境の変化にも自然体だった。
仲間たちの前で話す内容を考える時間が増えた。ただ、「あくまでキャプテンはリーチさん」という。
大きな信頼を得る人が不在の中で、その役割を遂行する。外国出身選手も多い。国籍に関係なく、みんなに耳を傾けてもらうためにユーモアある表現も入れて話す工夫をする。
ブラックアダーHCは「いつも心から(の言葉で)喋ってくれる」と24歳のリーダーを愛でる。
プレー面についても、「試合への出場が多くなり、自信を持ってプレーできている」と評価が高い。
「賢く、メンタルもタフ。フィットネスもパワーもある。ステップも切れて、スキルも高いし、リーダーシップにも感心しています」
褒めても褒め切れないと笑う指揮官。高い評価は、日本代表のエディー・ジョーンズHCのそれと、大きく違うことはないだろう。
伸び盛りのHOのシーズンは、長くなりそうだ。