図太そうな風情。着用を義務付けられているヘッドキャップの紐を「暑かったので」と止め忘れたとしても、プレー選択には賢さを醸す。
3月30日、埼玉・熊谷ラグビー場。ラグビーの大阪桐蔭高の上田倭楓が、全国高校選抜大会の決勝で石見智翠館を55-3と圧倒。クラブにとり11年ぶり2度目の春制覇を果たした。
まずは序盤の攻撃シーンで魅した。中盤の左側で3人のタックラーの視線を引き寄せながらパスを出し、味方が勢いよく突進するなか右への展開に移る。目の前の防御ラインに穴ができたのを見逃さず、ビッグゲインを決める。
正しい判断を下すには、前を見ることが肝だと語った。対面の守備役が横の動きに苦労しやすいFWの選手だったら、フットワークを活かす。
「まずは(球を)キャッチした時に目の前の選手を見る。それがFWの選手だったら、チャンスだと思って狙っていきます」
ゲームを通し、勤勉なFW陣の圧力を最適化した。29-3とリードして迎えた後半10分頃には、得意の足技で魅する。
自陣の深い位置から相手のチェイスラインに向かい、緩急をつけながら直進。一転、左の空洞へロングキックを放つ。
ここでも前を見たのがよかった。ボールを持っている間、石見智翠館の後衛のひとりが右側へ移ったのをチェック。逆側の穴を突いた。
「相手が右へのコールを出していたので、反対方向に。しんどい時間帯、テンポを出せない時間帯はまずエリアを獲る」
右足での長距離弾は、真っすぐ蹴る練習を繰り返してきたこと、身体の成長とともにパワーがついてきたことの合わせ技で体得したようだ。
「キックは得意というか、好きで、練習していた。最初は全然、跳ばなかったですけど、最近はだいぶ、安定してきた」
自らのプレーについて丁寧に語りながら、反省も忘れない。課題は一貫性だ。
「いいキックもあるけど、悪いキックもあった。『あの試合はよかったけど、この試合は…』というのをなくして、波の少ない選手になりたいです」
幼少期に2つ上の兄・倭士とともに、近所の枚方ラグビースクールへ入った。ラグビースクールに元NTTドコモレッドハリケーンズの猪村優仁さんがよく指導に訪れてくれたと感謝。憧れの選手は誰かと聞かれれば、迷わず「猪村さん」と答える。
大阪桐蔭高でも1年だけ一緒にプレーし、現所属先の帝京大で20歳以下日本代表候補となった兄について聞かれれば、「技術、実力で負けたらあかん」と負けん気をにじませる。
いまの目標は冬の全国で勝つことのほか、「高いレベルで通用するか、試したいです」。持ち前のスキルとジャッジメント能力でその時々の仲間を勝たせ続け、大学、リーグワン、国際舞台でも信頼を得たい。