同点でラスト2分を迎え、決勝点を刻んだ。
対する國學院栃木の吉岡肇監督を悔しがらせた。関係者にお馴染みの熱っぽい口調である。
「マークはしていましたけど…。『ここ』というところで、やられる。ベンチから見ていて『何番だ? …やっぱり、8番か!』と」
話題の主は祝原久温。石見智翠館の背番号8だ。3月28日に埼玉・熊谷ラグビー場で、全国高校選抜大会の準決勝に先発した。件の58分。この日自身2本目となるトライを挙げた。24-17で勝った。
このシーンでは、チームが敵陣ゴールラインに近づいた折にはタッチライン際に立っていた。しかしフェーズを重ねるうちに「内側で強いプレーをしたら前に出られる」と判断。中央の密集近辺に移った。最後は接点の脇を駆け抜けた。
持ち前の推進力を勝負どころで活かすイメージ。敵将にあっぱれと言わしめる思考を、自己分析する。
「チーム内で自由に動いていい立場。どこでも入れるようにしています」
身長180センチ、体重104キロ。福岡の空手少年だった祝原が父も親しんだという楕円球と出会ったのは、小学5年生の頃だ。理由のひとつは、ダイエットだった。
「小学校1年生で30キロありました。メインにやっていた空手の動きが、重かったんです。どうせならラグビーをやって、痩せようかなと」
当初こそ球を動かすBKのポジション群でプレーしていたが、「中1」には激しいコンタクトの伴ういまのFW陣へ転向。かねての目標だった減量については「余計、体重は増えました」。一方、進路は希望通りに選べた。
地元には、入学前までに全国優勝6度の東福岡が屹立。県下有数の実力者だった祝原の視野にも男子校の通称「ヒガシ」は目に入ったが、足を踏み入れたのは島根県にある全国大会の常連校だった。
その心は。
「共学に行きたくて。親と話していたら、寮生活にも興味があって」
素直な心境をフランクに述べ、こうも続けた。
「最初は大変でしたけど、それで成長できた部分もあります」
親元を離れて暮らすうち、毎日の洗濯が苦ではなくなった。何よりフィールド上でも躍動できた。攻撃時のインパクトは各所で評価され、昨季から高校日本代表候補となった。
今季は長らく本職としてきたNO8に加え、スクラム最前列中央のHOにも挑戦。準決勝でも途中からHOでパックを組み、「まだ完璧ではないですけど、頑張っています!」。将来、高いレベルの舞台でプレーすべく、FWのなかでできる役目を増やしたいという。
「まずは高校代表に入って、U20(20歳以下日本代表)、フル代表になれるように」
この春はチームの主将として、選抜大会の優勝へまい進する。ファイナルは準決勝と同じ地で30日にある。