832メートルはリーグ2位。自分より上にランクされているのは静岡ブルーレヴズのマロ・ツイタマだけだ。
東芝ブレイブルーパス東京のFB松永拓朗のランがファンを沸かせるシーンが多い。
冒頭の数字は今季リーグワンでのゲインメーター(ゲインラインを越えて走った距離)。日本人選手ではトップ。4位には弟・貫汰(コベルコ神戸スティーラーズ)の名前がある。
その走りは、第10節を終えて9勝1敗、2位と好調なチームを支える力のひとつとなっている。
3月17日(日)の三菱重工相模原ダイナボアーズ戦(秩父宮)でも積極的に仕掛けてチャンスを何度も作り、勝利の立役者のひとりとなった(41-19)。
3月24日(日)のリコーブラックラムズ東京戦にもFBで出場する。
今季開幕からの全10戦すべてで15番を背負うことになる。昨季も全16試合でFBを務めた。今週の試合で、27試合連続15番での出場だ。
強い風に見舞われたダイナボアーズ戦では、風下に立った前半をうまく戦って勝利を得た。
前半を24-14とリードする。「キックの蹴り合いが多く、チェイスとキックのシーンもたくさんあり、疲れた」と試合を振り返った。
風下に立った時間帯を制することができたのは、「ボールを持った時にいかに良いアタックをするかに集中した」からだ。
後半は相手に攻められる時間も増えたけれど、1トライだけに抑えた。
天理大時代はSO。2021年春、ブレイブルーパスに入った。加入後、なんの前触れもなくFBで起用されるようになったと笑う。
両方のポジションを経験したのは自分の強みでもある。
チームとゲームをオーガナイズすることが求められるSO。FBでは「ボールキャリーする機会が多いので思い切ってプレーする」ことを心がけている。
自身の好調さの理由を、「強みを出してプレーできている。自分の仕事をやり続けるのが大事」と話す。
「SOのとき、相手に体を当てて吹っ飛ばすとか、抜いていくとかは得意でなく、周囲を使うプレーを心がけていました」
迷いなく走る現在のプレーに、当時の経験が加味されてバランスの良さが生まれている。
オールブラックスのキャップを56も持ち、加入初年度からチームを巧みにドライブするリッチー・モウンガとも、連係よく動いている。
試合中、2人でコミュニケーションをとりながらスペースを埋めるシーンがよく見られる。
世界的司令塔の動きは後方から見ていても参考になる。
「パスもキックも、スキルのレベルがとても高い。そのお陰で、ボールを持っている時間に余裕がある」
自ら走る。蹴る。周囲を活かす。瞬時に下す的確な判断とプレーに相手は翻弄される。「空間が止まっているように感じます」と言う。
そんな存在が10番にいてくれるのも、チームが2位と躍進している理由のひとつなのは間違いない。
しかし松永は、もっと深いところにある変化を感じている。
「アタックも含め、一人ひとり、やることを明確にして動けていると思います。こういうラグビーをしたい、というのがみんな一緒。チャンピオンになりたいと明確に思っていることも含め、練習から空気が違います」
開幕から8連勝後、埼玉パナソニックワイルドナイツに敗れた(24-36)。しかし翌週、ダイナボアーズに勝った。
「ビッグゲームに負けた後も落ち込まず、すぐに次に踏み出せた」のは、次と上を見続けているから。歩みを止めない。
その意識は松永の言葉からも伝わる。ダイナボアーズには、昨季一度敗れている。特別な意識を持ってもおかしくなかった。しかし、集中して戦いに臨めた。
「悔しさとかでなく、あの一敗が響いてプレーオフに進めませんでした。だから相手云々でなく、先へ進むために、とにかく勝つことに集中しました」
昨季のリーグワンファイナル(クボタスピアーズ船橋・東京ベイがワイルドナイツを倒して初優勝)は、国立競技場に観戦に行った。
「普段、自分がピッチに立っている時は感じていなかったのですが、(両チームの選手たちが)ジャージーを着てラグビーをしている姿を見て、あらためてカッコイイと思いました。自分もそう思われたいな、と」
ブラックラムズ戦を含め、レギュラーシーズンは残り6試合。強敵との戦いが続くけれど勝ち続け、5月26日(日)は国立競技場で多くの人の声援を浴びたい。