ラグビーリパブリック

古巣・サンゴリアスとの決戦へ向かう気持ちは早明戦のよう。中村駿太と祝原涼介(イーグルス)の進化と決意

2024.03.23

特にスクラムで圧力をかけたい祝原涼介(左)と中村駿太。(撮影/松本かおり)



 胸の内を分かりやすく例えた。
「試合への気持ちの持って行き方とか、この1週間、早明戦のような感じです」

 3月23日(土)、中村駿太は横浜キヤノンイーグルスの2番のジャージーを着て、秩父宮ラグビー場で東京サントリーサンゴリアスと戦う。
 昨季まで7シーズン在籍した古巣の仲間たちと対峙する。

「楽しみです」と素直に言う。
 トイメンはチームメートで後輩だった堀越康介。「日本代表だし強い相手です。リスペクトし、僕には僕の良さがあるので、その強みを出して戦います」と話した。

 長く在籍したチームのことは、よく理解している。
 だからイーグルスの仲間へ、サンゴリアスのマインドセットなどを伝えることがある。勝ち慣れたチームを上回ることは簡単ではないと知っている。

 良すぎる居心地が、自分の進化のスピードアップを妨げている。そう判断し、プレーオフも含めた全18試合出場したシーズンを終えた後にイーグルスへ移籍した。
 新天地に来て数か月。環境を変えて良かったと体感している。

 今季は開幕からの全10試合すべてに出場し、先発で6試合。2月末には30歳になったが元気だ。
 ただ本人は、「すべての面で、もっとやらないといけない」と厳しい自己採点をする。

 自分に求められているものはもっと上のレベルだと分かっているからだ。
「スクラムをもっとうまくやらないといけない。ボールキャリーやスキルの部分は強みです。そこをもっと上げて、庭井さん(祐輔)/HO/32歳)ともっと差別化しないと」

 周囲の要求の高さを感じて発奮する。新たな好敵手との競争。自分が求めていたものがそこにある。それだけでも移籍は成功だったと思う。
「スクラムの組み方も、サンゴリアスとイーグルスでは違います。その両方を知れたことは、僕の財産になる」と笑顔が漏れる。

 チームカルチャーの違いも自分に新たな価値観を与えてくれている。
 自身の歩んできた道を振り返ると、桐蔭学園、明大と、同じポジションの選手たちとはあまり言葉を交わしてこなかった。
 サンゴリアスも、ライバル心を出して争うチームだった。

 しかしイーグルスは、「みんなで良くなっていこうという空気が強い」と感じている。
 試合の2日前、例えば土曜日が試合なら、木曜日の練習後は10数人でグラウンド近くのコーヒーハウスに向かい、プライベートのこと、ラグビーのことをあれこれ話し、リラックスした時間を過ごす。

「庭井さんも、いろんなアドバイスをくれます」
 馴れ合いとは違う、そんな団結力が新鮮だ。チームのあり方は、一つではないのだ。
 この仲間たちと勝ちたい気持ちが、どんどん強くなっている。

 サンゴリアスに所属していた昨季、3回戦ったイーグルス戦のすべてに出場している。
 2勝1敗と勝ち越してはいるけれど、シーズンラストゲームとなった3位決定戦では敗れた。
 その借りを返したい気持ちは試合が近づくにつれて強くなっている。

 その研ぎ澄まされていく気持ちが、大学時代に戦った早明戦に向かう1週間のものと似ているのだ。
 絶対に負けられない、負けたくない一戦へ、闘志がみなぎる。

 この試合への熱は、周囲の仲間たちの思いとは違ったものがあって当然だろう。
「言葉でははっきりとは伝えられていませんが、(特別な思いから生まれる)そういうものを期待されているとは感じています」

 両チームの応援席に、自分を応援してくれる人たちがきっといる。
 新しい環境で自分が成長した姿を見せる。

高いボールスキルが魅力の中村。サウナ好き。(撮影/松本かおり)

 中村の右隣で3番のジャージーを着て先発する祝原涼介も、黄色のジャージーを今季から赤に変えた。
 移籍1年目から、ここまでの全10試合すべてに出場。チームへの貢献度は大きい。

 サンゴリアスには2019年の春から4季所属した。しかし、なかなか一桁の背番号を背負うことはできなかった。
 昨シーズンもプレーオフを含む14戦に出場も、先発は3試合だけ。プレータイムを思うように積み上げることはできなかった。

 今季からイーグルスに移ったのは、ピッチにもっと長く立つためのチャレンジだ。
 サンゴリアス時代は社員選手だった。心機一転、プロ選手となって勝負をかける27歳は、試合出場時間の増加の先に日本代表があると信じて進化を誓う。

 移籍を決意した理由のひとつに、沢木敬介監督の存在も挙げる。
「当時(サンゴリアスの)監督だった敬介さんに誘われて入ったのですが、入社した時にはチームを離れていました。敬介さんから指導を受けたい。それも、環境を変えた理由です」

 高校、大学、サンゴリアス、イーグルスと同じ道をたどる先輩の中村同様、祝原も、移籍したことのメリットを早くも感じている。
 今季出場した10試合のうち7試合は先発。描いていた通りのイメージでプレータイムを伸ばしている。はやくも昨季の総出場時間を超える勢いだ。

 結果を積み上げることができているのは、プレーヤーとしての成長の証でもある。特にスクラムに関しての新しい知見が力を伸ばしてくれている。
 名嘉翔伍アシスタントコーチの細やかな指導は、以前、オール明治の試合でともにスクラムを組み、いろいろと教わった頃から信頼しているものだ。

 ベテランの庭井、中村からの学びも多い。
「駿太さんとはもともと練習中、試合中もよく話し、連係して動くこともよくあります。庭井さんの隣でスクラムを組むのは勉強になります。強さもそうですが、試合の中で押しにいくタイミングなど勉強になる」

 強力なランナーが揃うイーグルスの中で、オフ・ザ・ボールの動きと判断も高まっている。
 ただ満足はしない。沢木監督が自分に求めているものは国際レベル。そう理解しているからだ。
「例えばタックルなら、止めるだけでなく、押し込んで倒さないといけないと思っています」

 プロになって自分に使える時間も増えた。十分にリカバリーできる。パーソナルトレーニングにも取り組んでいる。
 セカンドキャリアに目を向けられるようにもなった。
 他のスポーツの現場に足を運んでチーム関係者と会い、話すこともある。サッカー、バスケットボール、野球の世界の普及や集客などについて知識を増やす。「将来的には、それらをラグビーに還元したいと思っています」と話す。

 サンゴリアス戦が楽しみで仕方ない。トイメンの1番は小林賢太。後輩で、食事をよく共にした仲だ。17番でベンチスタートの森川由起乙とも親しい。釣り仲間のひとりでもある。
 そんな間柄だったからこそ、「自分のベストのスクラムを組みたい」と腕をぶす。

 秩父宮ラグビー場のスタンドには、イーグルスのファンもサンゴリアスのファンもいて、中村と同じように、両方のファンからの声援を受けるだろう。
「その方々に、自分が成長した姿を見せたい」と覚悟を決める。

 祝原も昨季のサンゴリアス×イーグルスの全3試合に出場した。敗れた3位決定戦のことは忘れられない。サンゴリアスでのラストゲームで、数か月後には自分が加わるチームに負けた。
 悔しい。そして複雑な心境だった。

 その試合でイーグルスの選手たちが喜んでいるシーンを撮った写真が、イーグルスのクラブハウスに飾ってある。
「あれに、自分も写っているんですよ。その前を通るたびに悔しくて、はやく外してもらわないと、と思っています」

 代わりの一枚となるシーンを撮れるような試合を3月23日に刻みたい。
「(サンゴリアスは監督であり策士の)敬介さんが何かを仕掛けてくると警戒していると思います。それだけで有利ですよね。先制パンチを出すのが大事だと思います」

 早明戦みたい、という中村の感覚を聞き、「いまはそういう感じはしていませんが、(試合当日)いざグラウンドに出たらそんな気持ちになるのかもしれません」。
 絶対に勝つ。

184センチ、115キロと大きな祝原涼介。船舶免許を持つ。(撮影/松本かおり)


Exit mobile version