美しく、泥臭い。
三菱重工相模原ダイナボアーズは今季、アイデアマンで鳴らすジョー・マドック新アシスタントコーチを招いた。
鍛錬期から多角度的に空洞を射抜くシステム、技術を涵養し、シーズンイン後は対戦カードごとのビジョンを共有し、美しいつなぎを披露する。
防御で魅して残留できた昇格初年度からステップアップし、SHの岩村昂太主将いわく「アタックでプレッシャーをかける」ようになった。
3月3日、東京・秩父宮ラグビー場でのリーグワン1部・第8節でもそれは然りだった。昨季王者のクボタスピアーズ船橋・東京ベイとトライを奪い合った末、34-28で制した。
SOのジェームス・グレイソンが相手の小兵が立つ場所へキックパスを放ち、NO8で身長194センチのジャクソン・ヘモポに捕球させたのは4分のことだ。FLの鶴谷昌隆副将に先制させた。
5-5で迎えた10分頃こそ進路を読まれたようなタックル、カウンターラックに苦しんだものの、5-12と7点差を追う33分には緩急でスコアした。
大きなFWの縦突進でじっくり接点を作り、一転、きれのあるBKを相手FWの隙間へ走らせる設計で徐々に前進した。
CTBの岩下丈一郎が止めを刺すまでの間、その相方のカーティス・ロナが防御の死角へ球をつなぐこと2回。元オーストラリア代表戦士が、マドックの仕組みを機能させた。
「私たちは長くボールを持ち続けたいと思っている。そのなかで、自分がキャリーする時間が増えたのです。自分は、自分の行動でリードしないといけない。そのために日本に呼ばれたんです」
岩村は、ひとつのビジョンを15人で共有できたと話す。
「ダイナボアーズは、最初にフィジカルでダイレクトに行った時の方がいいアタックができる。FWにミドル(真ん中あたり)でバンバン行ってもらって、いろんなことのできるロナに皆がリアクションする…。それがスタイルなのかなと」
互いに殴り合って辿り着いたゲームの終盤には、本来の信条たる粘りで魅する。
29-28とわずかに先行の72分。点の取りあいの口火を切った鶴谷が中盤のこぼれ球を確保。スピアーズの攻撃を断ち、グレイソンのキックで陣地を挽回した。
先方の処理ミスと相まって、1分後には34-28と加点。直後の攻防では、またも鶴谷が自陣深い位置でのジャッカルでピンチを脱した。結局、ラストワンプレーまで守勢に回りながらも逃げ切った。
ふたつの渋い働きを、鶴谷自らが述懐する。
「チームとして、ルーズボールへダイブすることは徹底していました。自分のところにきたら、ダイブ。身体が勝手に動いた感じです。ブレイクダウン(接点へ絡むこと)は自分の仕事です」
勝者が信じた道を突き進んでいた一方、敗者は要所で迷いを覗かせたか。
終始、似た反則を繰り返し、与えた「P」の数はダイナボアーズの約2倍にあたる13にのぼった。
相手ボールキックオフ時にも、失敗を重ねた。
前半終了間際にリードを失ったのも、そのパターンからだ。CTBの立川理道主将が左隅のスペースへ足技でつなごうとしたところ、その楕円球をダイナボアーズのWTB、ベン・ポルトリッジにさらわれた。
17-17になったそのシーンを、立川は振り返る。
「そのトリガーを引いたこと(判断)に後悔はないですけど、精度には反省があります」
パスの投げ手と受け手の呼吸が合わぬシーンも多く、SOの岸岡智樹は彼我を見比べてこう語る。
「(ダイナボアーズは)シンプルでした。他に選択肢があったとしても、『僕らはこれをやり切る』と決めていたような。逆に、僕らは迷った部分もあったかなと。(試合中に)『あっち(の空間)も空いていたよね』という話も出たくらいなので」
これで両軍とも勝率は5割。順位はダイナボアーズが12チーム中8位でスピアーズが6位だ。
混とんとするリーグをさらにおもしろくさせた今度の80分は、勝負を制するのには個々の経歴よりも集団としての意思統一が肝だと証明した。この日の登録メンバー中、昨秋のワールドカップ・フランス大会出場者はスピアーズの3に対しダイナボアーズは0だった。