ラグビーリパブリック

【連載②・秩父宮のゆくえ】快適な観戦環境を届けるため。席数大幅減×3面配置のわけ。

2024.03.05

地下1階、地上7階建てで、最高高さは国立競技場とほぼ同じで約48㍍。メインスタンド(写真左)は東側(絵画館側)、大型スクリーンは南側(外苑前駅側)にあたる©新秩父宮ラグビー場株式会社

 神宮外苑地区を、国立競技場を中心とした「スポーツクラスター」(集積地)とする再開発事業。新秩父宮ラグビー場は現在の神宮第二球場跡地に建設され、2027年12月末の運用開始を目指している。
 施設の閉鎖期間を極力短くするために段階的な工事が計画され、新しい神宮球場よりも先にラグビー場がお披露目となる。

 ’22年の8月には新秩父宮の整備や運営などの事業をおこなう民間事業者を、日本スポーツ振興センター(以下、JSC)が発表。入札希望者の3者は、JSCから109㌻に渡る要求水準書に記載された条件のもと、スタジアムの設計や30年間の運営などのプレゼンをおこなっていた。
 コンペで一番の評価を得たのは、鹿島建設を代表企業とする「秩父宮ラグビー場株式会社」(落札時の事業グループ名はScrum for 新秩父宮)。同社は三井不動産、東京建物、東京ドームで構成される。

 新秩父宮は「秩父宮ラグビー場」の名称を引き継ぐが、ネーミングライツとして「秩父宮ラグビー場(○○)」というように副名称を付けることが可能だ。

 連載の第2回では、「秩父宮ラグビー場株式会社」などに新秩父宮ラグビー場の詳細を聞いた。

 ラグビーファンにとって一番気がかりなのは、「座席数の大幅減」だろう。現在の約2万5000席から約1万減の約1万5500席とされる(イベント時は約2万500人)。
 これに対し、日本ラグビー協会は「新たに開催対象となる試合(多くの観客を見込めない試合)も増えることから、前向きに受け止めている」とコメント。「1万5422席以上」を条件としたJSCの関係者が説明する。

「日本協会とも、かなり議論を重ねました。席を狭くしたり、コンコースを狭くすることで、より多くの席数を確保することは可能です。ですが、既存のラグビーファンはもとより、これまでラグビーに興味のなかった新規のお客様にも快適に見ていただき、より楽しんでいただきたい。そう考えると、ある程度の席幅を確保し、安全性のためにもコンコースを広げる必要がありました」

「ラグビーの裾野を広げ、新たなファン拡大を目指す」。それが新秩父宮のコンセプトのひとつであり、今回はそれを実現した形だ。

 席幅は、要求水準書では「幅520㍉×奥行900㍉以上」とされている。これは日産スタジアムと同程度で、狭いという声も多い現秩父宮の「幅415㍉×奥行800~850㍉程度」よりもかなりゆとりが生まれる。現秩父宮にはないドリンクホルダーが設置され、一般席でもクッションが付けられるなど、快適な環境で試合観戦を楽しめるだろう。

 また、スタンド上段を弓の形状にすることで視野角を調整し、端の方の席でも快適に見えるように設計。さらに現秩父宮のバックスタンドを継承し、最前席はフィールドとほとんど同じ高さで見られるような造りとなっている(メインスタンドは選手のベンチがある分距離はある)。

 鹿島建設の関係者が重ねて言う。
「いろんな人にラグビーに親しんでもらいたい、ラグビーファンの裾野を広げたいと思っています。そのために席幅だけでなく、いろんなバリエーションの特色あるシートがあります」

 家族で試合観戦ができるボックス席や、北側ゴール裏スタンドには高さ30㍍から見下ろせる「スカイラウンジ」があり、同スタンドの角には「ラグビータワー」と称した斜めから全体を俯瞰して見られる席が設けられる。ゴール裏で観戦するコアファンも楽しめるだろう。VIP席や観戦シート付き個室も完備され、商談などにも使用可能だ。

 新秩父宮は、客席が3面のパリ・ラ・デファンス・アレナ(旧名称・Uアリーナ/フランス)をモデルとしている。仮に客席を4面すべてに配置すれば座席数を増やせただろう。

 しかし、鹿島建設の関係者はこう説明する。
「限られた敷地(現秩父宮と同等の敷地面積)で、4面のスタジアムを作ることが難しかった。UアリーナのようにU字型の座席配置のラグビー場はほかにいくつもあり、より臨場感を高めるには残り1面に大型スクリーンを設置することが演出の肝でもありました」

 もう片方のゴール裏に設置されるのは、国内最大級の「超」大型スクリーンだ。大きさは50㍍×12㍍で、国立競技場の32㍍×9㍍よりもはるかに大きい。ほかにも、16㍍×9㍍のスクリーンが2面と、グラウンドを囲うようにリボンビジョンも設置される。

 JSCの関係者は言う。
「いろんなことに活用できると思っています。ラグビーでは近年、TMOでリプレイを映すシーンが増えました。大きいスクリーンでリプレイを見られれば、観客の方も納得しやすいのではないかと」

 座席数を限定した恩恵はほかにもあり、コンコースを広げたことで、車いす席などユニバーサルデザインにも対応。壁には2019年W杯の写真を展示するなど「スタジアム丸ごとラグビーミュージアム」となるような演出も施す。

 鹿島建設の関係者は強調する。
「間違いなく良いものができると信じています。できる限り早くファンの皆様に楽しんでいただきたいです」

 次回はラグビーファンが座席数減とともに疑問を抱いたであろう、「全天候型スタジアム」「人工芝」となった経緯や理由を解説する。

*ラグビーマガジン4月号(2月24日発売)の記事を再掲
*第1回の記事はこちら

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