ラグビーリパブリック

雨中の肉弾戦。激しさと「判断」のスティーラーズが堅守のブラックラムズを制する。

2024.02.27

ブラックラムズの堅守に挑むスティーラーズのアーディ・サベア(C)JRLO


 雨で手元の滑る本拠地。粘るリコーブラックラムズ東京が今季2勝目をつかむには、願ってもない舞台だったのではないか。

 リーグワン再開後初戦にあたる第7節へは2月25日、東京・駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場で臨み、勝率5割だったコベルコ神戸スティーラーズを迎えた。

 代表戦経験者の数で7名も上回る豪華客船に迫られながら、自陣22メートル前後や同ゴール前でのピンチを前半だけで7度しのいだ。

 タックラーが走者を倒すや素早く起き上がり、防御網の枚数を保った。プレシーズンにもっとも磨いてきたというこの動作が、向こうの落球、仕切り直しのキックを誘った。

 スティーラーズのFLで、昨年の世界最優秀選手となったアーディ・サベアは認める。

「なかなか獲り切れないことで、フラストレーション、焦燥感はありました」

 ハーフタイムが明けても黒い壁は敷かれた。43分以降は10-17と追う立場でイエローカードによる数的不利を強いられながら、概ね鋭いカウンターアタックで時間を使った。50分頃にはトライラインを背に堅陣を整え、抜けたメンバーが戻るまで追加点を与えなかった。

 57分には、FLの松橋周平が好タックルで自軍スクラムをもらった。それを周りの仲間が讃えた。FBのマッド・マッガーンいわく、「チームの力になっていながらファンの方がなかなか気づいてくれない、コメンテーターも拾わないシーンにも、僕は感謝しているのだと伝える」。元スティーラーズで現ブラックラムズのFL、ブロディ・マクカランは笑う。

「スーパースターばっかりのチームに、いいディフェンスができた」
 
 白星には嫌われた。再三の得点機をエラーで終えたのはブラックラムズも然り。敵陣へ転がるルーズボールを追った結果、勢い余って反則をするシーンもあった。終始、奮闘の松橋は言う。

「もっと、スマートになるべきです。うちは泥臭い部分を謳っていますが、激しさのなかに冷静さを持てるかが大事。チャンスの時こそ冷静になれたら、もっと簡単にトライが獲れる」

 17-20と3点差に迫った直後の66分。キックオフで処理を誤り、スティーラーズに攻められる。試合途中からSOに入った先発CTBの李承信が、左中間から右へキックパス。WTBの山下楽平の声を聞き、放った。そのまま山下がフィニッシュした。17-27。そのままスコアは動かなかった。

 敗者は自陣深くから展開を図り、かえって泥沼にはまるシーンもあった。

 理想を追求することと現実に即して動くこととの「バランス」を見誤ったと、CTBの栗原由太は言う。

「ディフェンスの基盤ができた。ただ、結局、アタックをしないと得点で上回れないよね、と(攻めに注力してきた)。ただ(きょうは)天候など諸々を考えたら、きょうはもう少し蹴ってもよかったのかなと。そのあたりのバランス、探り中です」

 6敗目を喫し、昨季の最終順位よりみっつ下の10位に落ちた。頑張りを結果につなげるには何が必要か。ロングキックが冴えたマッガーンは、己に言い聞かせるように言う。

「どこかで必ず、ターニングポイントは来る。その時に準備ができていないのはよくない。だから、自分たちらしくやり続けるしかない」

 かたやスティーラーズは、立て続けに逸機も勝って6位浮上。前年度9位のクラブの再建を託された元オーストラリア代表指揮官のデイブ・レニー新ヘッドコーチは、残る9戦での4強入りを目論む。

「昨季の順位を踏まえ、課題がたくさんあるのをわかったうえでシーズンをスタートさせています。コンディショニング、スキルセット、ゲーム理解度…。それらをハードワークで成長させるべく取り組んでいます。負けていないチームには負けていない理由がある。我々よりもデベロップが進んでいるのでしょう。それに対し、自分たちは全てのエリアを成長させている途中。それを続けます」

 この日の勝因は接点にあった。ブラックラムズのランナーが孤立して倒れると見るや、強靭な狙撃手が次々と楕円球へ腕を差し込んだ。今年2月に日本代表候補となったNO8のティエナン・コストリーは、よく局面に顔を出したうえで述べる。

「雨の中の試合ではブレイクダウン(接点)が大事。どちらがフィジカルバトルで勝つかで、試合の結果は変わると思っていました」

 対するマクカランはこうだ。

「(スティーラーズは)判断がよかったね。(接点に)入るか、入らないかの」

 その領域でもっとも目立ったのは、ニュージーランド代表81キャップのサベアだろう。

 10-10と同点で迎えたハーフタイム直前に自陣ゴール前でジャッカルを決めたり、74分には敵陣22メートル線付近左で迫りくる突進役を羽交い絞めにして押し返したり。1年限りの契約なのが早くも惜しまれる。

「激しさが自分の持ち味であり、相手にとって『こいつ、嫌だな』と思われるスタイルを自負しています。先を見据えるのも大事ですが、1試合ずつ丁寧にこなしていかないと躓いてしまう。次戦へ集中力を高めていい準備をし、いい結果を出す。次のことはその後に考える」

 試合後には、カーキ色のチームスーツに白いTシャツとベージュ風のパーカーを合わせた着こなし。手元や耳元で宝石が光っていた。

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